第11章 尸魂界潜入編
こんな状況下でも呑気に笑うゆうりに檜佐木は何となくペースを乱され、片手で頭を掻き腕に込めた力を緩めた。改めて見る彼女は相も変わらず美しく、凛としていて妙に安心する。居なくなってしまった頃と何も変わらない。
「…ゆうり、お前何で今まで帰って来なかった?それにこのタイミングで現れたって事は…旅禍だろ。」
「帰れるわけ無いじゃない、私が生きてたとしてもどうせ死神を殺したお尋ね者になってしまうんだから。それなら現世で身を潜めた方が都合がよかったの。ここに戻ってきたのは…修兵だから言うけれど、大事な友達と尸魂界を守る為。」
「尸魂界を…?」
旅禍であるゆうりが尸魂界の身を案ずる意味が分からなかった。寧ろ旅禍なのだから、瀞霊廷を脅かす存在になる筈だ。けれど、彼女が何か嘘を着いている様にも見えない。
「とにかく、私はやらなきゃならない事が有るからここに来た。それだけよ。だから修兵。私と会った事は黙っててね。」
「え…おい、もう行くのか…?」
「一護と一角さんの戦いが終わったみたいだから。結構派手にやり合ってたみたいだし様子を見に行かないと。一護に死なれたら困るもの。」
一護、とは彼女と共にこの地にやってきた旅禍だろう。しかも、名前から想像するに男だ。そもそもここで行かせてしまっていいのか…?相手はゆうりといえど、今は旅禍だ。副隊長として捕えるのが正しいんじゃねぇのか…?でも、捕まえてゆうりが裁かれたら…。
檜佐木の中で葛藤が起こる中、彼女はかんぬきを取り外し今にも出ていこうとする。慌てて肩を掴み止めると、ゆうりはキョトンとした顔で振り返った。
「どうしたの?」
「どうしたって……あのなぁ、俺たちは今敵同士だろ。そう易々と行かれると…」
「…行かせてくれないの?」
「…う、ぐ………っ!」
眉を下げ、困った顔で真っ直ぐに見詰めて来る彼女に檜佐木は押し黙った。その顔は狡いだろ…。
まるで石化してしまったかのように動かなくなった彼を見て、ゆうりは小さく吹き出し肩に乗せられた手を取り両手で包み込んだ。
「…私を信じて。今度は絶対に誰も死なせないから。」
「ゆうり…お前は一体誰の味方なんだ…?」
「私は護廷十三隊の染谷ゆうりだよ。いつだって尸魂界と現世を護る死神の味方。」