第2章 過去編
人当たりのいい笑みを見せて手を差し出した藍染にゆうりは一瞬眉をひそめた。しかし直ぐに取り繕ったような笑顔で返し手を握る。
すると不意に後ろからゆうりの身体が包み込まれた。何事かと後ろを見ると仏頂面をした平子が彼女の細い体躯を抱き締め、頭に顎を乗せる。
「何でオレの部屋におんねん惣右介。呼んどらんぞ。」
「今日は新しく五席に着いた子を紹介すると話したじゃないですか…平子隊長。」
「そやったっけ?…あぁ、1年で卒業した天才っ子か。んで、その五席は…?」
「ボクや。」
ひょっこりと藍染の後ろから顔を覗かせたのは銀色の髪をした狐目の男の子だった。その口元には貼り付けたような笑みを浮かべている。ゆうりは彼を見た途端、嬉しそうに目を輝かせた。糸目の少年はうっすらと瞼を持ち上げた。己と同じく年端もいかぬその少女の瞳は何の穢れも知らない、とでもいうように澄んでいた。自分の中まで探られそうな、己と正反対とすら感じる眼に、耐え切れず瞼を降ろす。
「私と同じくらい…!私は染谷ゆうり。君、名前なんて言うの?」
「市丸ギンや、よろしゅう。」
「…僕の時とは随分反応が違うな。」
「先に隊長であるオレに挨拶せんかい。」
不貞腐れた顔で平子は呟いた。
程なくして4人は五番隊隊舎の縁側に座り話をしていた。藍染の隣に市丸、その隣には平子。そして何故か平子の膝の上にゆうりが座っている。
「…あの、平子さん。重いと思うので降ろして頂けると…。」
「嫌や。重くないしむしろ軽いくらいやで。わたあめみたいや。」
「隊長は本当にこの子がお気に入りなんですね…。」
「そらそうやろ、今こない美人なんやで?将来えらいえぇ女になる事間違いなしやん。」
「確かに顔立ちはとても綺麗だ。けれど…僕はキミの霊力の高さの方が気になるな。これが制御装置かい?」
藍染の腕が伸ばされ彼女の首元に有る瞳と同じ色の石へ触れた。するとすぐ様ゆうりはその石を庇うように手のひらの中へ収める。
「…そうです、浦原さんが私の為に作ってくれました。無闇に人に触らせないように、と言われてます。」
「なるほどね。それでも石に収まりきらず未だ霊圧が漏れ出てる辺り、自分自身で扱える様になれば随分優秀な死神になれそうだ。」