第10章 尸魂界突入編
ゆうりは屋根の上まで飛ばされた兕丹坊の腕を担ぎ、仰向けに気絶する彼の左腕を地面に降ろす。切り口近くを縄で1周括り、村人と協力しながら肩へなるべく寄せる。元々人間の何倍も大きい兕丹坊の腕は、普通の魂魄では動かすのも一苦労だった。
「舜桜、あやめ。"双天帰盾""私は拒絶する"。」
「死神連中ん中にはイバリくさったヤな奴も多いけど兕丹坊さん流魂街出身でね。おれらにすごく優しかったんだ。あんたは兕丹坊さんの為にあの市丸ギンと戦った。だからきっといい人だ。」
「…そうか。」
井上は六花を使い兕丹坊の傷を淡いオレンジ色の光で包む。これだけ大きな怪我を治すのは、彼女にとって初めてだった。真剣な眼差しで霊力をあてて回復を試みる。
一護は村人達と話し、ゆうりは四楓院と共に長老の部屋で話し込んでいた。
「……これで白道門は使えませんね。どこから瀞霊廷に侵入しますか?夜一さん。」
「うむ…こうなってしまっては致し方無い。ゆうり、志波空鶴を知っておるか?」
「志波、空鶴…。海燕さんの妹さんですね。お話は聞いた事有りますが、お会いした事は有りません。」
「ヤツは花火師でな…門から侵入する事が出来ぬとなれば後は空からしか無い。空鶴の元に向かい、霊珠核というモノを使って強引に突破する。少々無茶じゃが、これしか無かろう。」
「…なんでだろう、凄く嫌な予感がする。」
花火師…つまり私達が花火の玉となって打ち上げられるのだろうか…?聞いたことも無い侵入の仕方だ。本当に無事瀞霊廷に入れるのかな…。
些か不安は有るが門を閉ざされてしまった以上他に方法はない。それに何より空鶴という人間に会ってみたかった。きっと海燕さんに良く似た人なのだろう…想像するだけで緊張する。
気が付くと夜が訪れ、辺りは随分暗くなっていた。長い時間兕丹坊に付きっきりで治癒を進めていた井上の額からは汗が滲む。少しずつ、だが着実に腕は接着し始めている。
「大丈夫?舜桜、あやめ。ごめんね、もう少し頑張って…。」
浅く息を吐き出しながら井上は今日の出来事を振り返る。戦う一護の背中を思い出してはニヤニヤと口元が緩んだ。好きな男の姿思い浮かべたからか、俄然やる気を取り戻し息を巻いて腕まくりをする。