第10章 尸魂界突入編
余程ショックだったのか、兕丹坊はその場に蹲り子供のように泣きじゃくった。体格が大きいだけにその光景はあまりに異様で、ゆうり達は困った様に頬を引き攣らせる。
「こ…今度は泣き出したぞ…なんなんだ一体…。」
「まぁ……私も斬魄刀が壊されたら泣く、かな……。」
「え…えっと…なんつーか…わ…悪かったな…斧壊しちまって…なにも2本壊すこと無かったよな、俺も…なっ?」
「うおお…うう…お…お前え…っ!いい奴だなぁ…!!」
目の前でわんわん泣かれ、敵ながら同情の念を抱く一護に彼は地面から顔を上げ涙と鼻水でぐちゃぐちゃになった顔を見せた。大男の泣き顔を間近で見せられた一護は1歩たじろぐ。
「お前えどオラは敵同士…だのにお前えは負げだオラの心配まですてぐれる…でけえっ!なんて器のでけえできた男なんだお前えは!!」
「イヤ…つーか目の前であんだけ泣かれたら慰めざるを得ないっつーか…」
「それにひぎがえ何だオラは…斧が折れだぐれえでベソベソすで…男とすでなさげねえだ!!…完敗だ…」
「は?」
「完敗だっ!!オラは戦士とすでも男とすでもお前えに完敗だ!!!」
吹っ切れた様に兕丹坊は身体を起こし両腕を高々と上げた。その表情は斧を折られた直後より幾分も晴れやかに見える。
「この白道門の門番になっで三百年…オラは一度も敗けだこどがながった…お前えはオラを負かすだ初めでの男だ…通れ!白道門の通行を兕丹坊が許可する!!」
「お…おうっ!」
どうやら完全に話がついたらしい。そもそも、瀞霊廷を護る彼が敗北したからといえ敵を易々と入れていいのか疑問だったが、一護達にとっては都合が良かった。ゆうりは1歩前に踏み出し兕丹坊の元へ歩み寄る。
「ん…?お前え、死神だか…?」
「えぇ、初めまして、染谷ゆうりよ。」
「染谷ゆうり…元十番隊三席の名前だべ!?死んだんじゃねえだか!?」
「見ての通り生きてるわ。それより、貴方の斧貸して貰える?」
「…壊れちまっただよ…もうこれしか残ってねえ…。」
彼の掌には、斧の持ち手だけが無残に残されている。この斧は、瀞霊廷を三百年守り続けて来たのだ。それだけ長い時間、兕丹坊の元で支えて来てくれた武器にせめてもの敬意を。