第10章 尸魂界突入編
「お前たづ行儀が良ぐねえな。さでは田舎モンだべ?いいが?都会にはルールっでもんがあんだ。ひどづ、外から帰っだら手ぇ洗う。ふだづ、ゆがに落ぢだもんは食わね。みっづ、決闘する時は一人ずつ。オラの最初の相手はあのこんぺいとみでえな頭の小僧だ。それがすむまでお前たづはこごでおどなしくしでろ。都会でやっでぐには都会のルールさ守らねばな。」
井上は不安げに壁を見据えた。岩盤は厚く椿鬼では穴を開けるのも難しいかもしれない。でも、一護を助けにいきたい。そんな気持ちと力が釣り合わない感覚がもどかしい。
彼女の思いを察してか、隣から茶渡がそっと声を潜め囁く。
「…井上。今から俺が隙を見てこの岩壁に穴を開ける…その瞬間その穴からあいつ目掛けて椿鬼を撃ち込んでくれ…!」
「なんだ?まだなんかゴチャゴチャやってるだか?」
声は至極小さなものであったがあの巨体の割に耳は頗る良いらしい。兕丹坊はクルリと振り返し再度井上達に釘を打った。ゆうりは指先で頬を掻きチラリと四楓院を見下ろすと彼女は大きくため息を吐き出す。
「やれやれ…ゆうり、上から見てやってくれんか。何かあれば手を貸してやれ。」
「はい、そうします。」
「おーいチャドーー井上ーー。」
「黒崎くんっ!?大丈夫!?怪我してない!?」
「おーーピンピンしてらー。」
「ちょっ…ちょっと待っててね!今から…」
「あーその事だけどな井上。オマエとチャド、そこで何もしねーでじっとしててくんねーか?」
「え…な、何言ってるの黒崎くん!そんなの…」
「いーからいーから!心配しねーで待っててくれって!」
壁の奥から聞こえてくる声は堂々としていて、戦いに関する不安すら感じられない。しかし彼の言葉では納得が出来ず、黙っていた石田が声を上げた。
「いいや!断る!!」
「石田くん。」
「君も見ただろう!あの兕丹坊の怪力!この10日で君がどんな修行したか知らないが…とても君ひとりで太刀打ちできる相手じゃない!」
「……居たのか石田。」
「さっきから居ただろ!!こんな時までいちいちカンに触る言い方するなっ!」
「…ギャーギャーうるせえなあ…。」
拉致の明かないやり取りに一護は頭の後ろを搔いた。圧倒的な力を見せられたにも関わらず余裕の伺える声音に茶渡はじっと岩壁を見詰める。
「…やれるのか。」
「多分な。」