第9章 現世編(後編)
「…喜助?盗み聞きとは趣味が悪いわね。」
「はは…バレちゃいましたか。」
「……部屋、入る?」
「お邪魔します。」
浦原を部屋に招き入れ、扉を閉めてから向き合う様にして座る。お互い何も言わずただただ無言の時間が過ぎていく。
ゆうりはなんと切り出すか迷っていた。尸魂界に留まる意思があるという事に関してはまだ彼にしっかり伝えていない。けれどそれも今盗み聞かれてしまったらしい。
「…話聞こえてたと思うけど、その通りよ。藍染の離反で、事件の黒幕が割れる。これで私がもう一度護廷十三隊に迎えられるなら残るつもり。」
「多分、アナタはそうすると思っていました。でも、面と向かって言われてしまうと寂しく思いますねぇ…。娘を嫁に出す父親って、こんな気分なんでしょうか。」
「馬鹿なこと言わないでよ、少し会えなくなるだけじゃない。誰かに貰われるわけじゃないし暇があればこっちに来るつもり。でも…こうやってウルル達や皆と過ごせなくなるのは私も寂しい。新しい友達も沢山出来たのにね。」
「……本当に、死神に戻るつもりですか?」
「戻るも何もずっと前から私は死神よ。現世で人間の真似事をして過ごしている事が寧ろ、おかしな事だったの。それにやっぱり、一護やルキアを見て思ったけれど私も誰かを守る為に自分の手で戦いたいから。」
眉を下げ、申し訳なさそうに言葉を紡ぐゆうりに彼は俯き大きく溜息を吐き出した。彼女には表情が見えない。
事が上手く運べば恐らく、彼女はもう一度護廷十三隊に受け入れられるだろう。そうなってしまえば会える回数も激減してしまう。この綺麗な髪も、肌も、声も、全て聞く事も無くなり、触れられもしない。それを拒む気持と彼女が望む居場所を取り戻して欲しい気持ちが交差する。ずっと此処に、居てくれれば良いのに。ボクのものになれば良いのに。
エゴ的感情を押し殺し、浦原はパッと顔を上げると口角を緩めて笑った。
「それもそーっスね!ゆうりにはまだ向こうに残る事が出来る。それなら、戻るのが1番でしょう。護廷十三隊としても、あなたの力を求めているでしょうしね。」
「…喜助。」
「はい?……っとと、どうしました?」