第9章 現世編(後編)
「でも……」
「ゆうりに足りないのは経験でも力でも有りません。知識です。そもそも、指輪を外してしまえばアナタの霊圧は隊長を凌ぐんスから。無理に鍛える必要なんて無いんですよん。」
「えぇー!?なんか言いくるめられてる気もするし尤もな気もして言い返し辛い…。」
自覚がある事柄な分、携帯を取り返そうと浦原の太腿に手を乗せ懐へ伸ばした手もピタリと止まる。どうにか反論の余地は無いかと言葉を探すが、唇を引き結び思考を巡らせたものの見付からず、結局ガクリと肩と手を落とした。
「諦めてくれました?」
「どうせ諦めても返してくれないでしょう…。」
「アラ、ボクの事よーくお分かりで♡」
彼は悪びれも無く笑い扇子を拡げあおぐ。居間に残ってしまったが故に一部始終を全て見ていたジン太は頬杖を着いて深く息を吐き出した。あまりにわざとらしいそれに2人の視線は自然と彼へ向く。
「オマエらさぁ…イチャつくなら部屋でやれよなぁ。」
「えぇ!?イチャついてないよ!」
「そーっスよ、イチャつく時はもっとベッタベタなんで。」
「子供に変なこと吹き込まないで貰って良いですか?」
「いてててっ。」
「ガキじゃねーよ、ここに拾われて何年だと思ってんだ。」
「もう20年以上経つね!最初は全然懐いてくれなくて大変だったなぁ。」
「今そんな話してねーよ!」
息をするように嘘を吐く浦原の頬をゆうりは抓り、ジン太は小さくケッ、と漏らした。これだけ嫉妬の色を秘めた眼をしていても彼女には通じず、思い通りになる事が無いのだと思うと些か不憫にも思える。
その後取り上げられてしまった携帯の奪還が叶わなかったゆうりは、残りの数日間を文字通り本の虫として彼の研究室で過ごのだった。
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