第9章 現世編(後編)
吹き飛ばされた一護は、膝と手を着き何とか体勢を立て直そうとした。しかしそれよりも先に浦原が土埃の中現れ、斬魄刀を振り上げている。咄嗟に折れた刀を構え、はばきに近い部分で太刀を受け止めたが、圧倒的に一護が押されていた。
「逃げもせずその折れた刀で刃を受け止めた事は褒めてあげましょ。たいした度胸だ。だけど…そんな斬魄刀で扞ぎきれるほど、紅姫は優しくないっスよ。」
「!!」
ズズ、と紅姫の刃が一護の刀へめり込む。更に力を加えるとそれは呆気なく斬り落とされた。
刀を再び折られた彼に、もう武器は無い。残っているのはただの柄と、はばきだけだ。そんなもので、戦えるはずが無い。本能的に殺されると感じた一護は踵を返し逃げ出す。まさか斬魄刀が斬り落とされるなど思ってもみなかった。冷や汗が頬を伝う中、浦原は逃げる一護へあっさりと追い付く。
「言われたでしょう?ただ巨きいだけなんですよ。キミの刀は。」
「くッ!!」
「霊気が詰まっていないんだ。ただ膨張して、フワフワと刀の形を成しているだけ。だからこうして、簡単に砕けてしまう。」
浦原を退けようと一護は刀を振るう。折れた刃は届くこと無く宙を空振り、紅姫を構えた彼はそんな刀を一瞬で鍔ごと斬り捨てた。半分になった鍔は行き場を失いその場へ落ちる。残った柄を見て一護の表情は絶望そのものに変わった。
「さて、刀は無くなった。どうします?まだそいつで向かって来ますか?なに、アタシの帽子を落とすだけだ。その柄だけでも出来ない事じゃない。だけどそれはもう、度胸や勇気じゃないってだけの話。先に言っておきましょうか。まだその玩具でアタシと戦う気ならアタシはキミを殺します。」
「喜助…。」
少し離れた位置でも分かる。浦原の霊圧が上がった。尸魂界には、13人もの隊長が存在する。その全てを退け、ルキアを奪還するというのは相応の覚悟が必要なのだ。名も知らぬ、斬魄刀とも呼べぬ刀で向かえばどの道彼は死ぬだろう。かなりスパルタにも見えるが多分、一護は口で言っても分からぬタイプが故この手段が1番手っ取り早い。それを理解したゆうりは、岩の上で2人の様子を見守った。
それから彼は、死にものぐるいで浦原から逃げる。岩に隠れ、全力で走り、時に転がりながらも生を求めた。どれだけそうしていたのかは分からない。だが、不意に前触れも無く一護は立ち止まる。