第9章 現世編(後編)
「や…やるじゃねーか!そんな細い剣でよ!」
「ありゃ、褒められちゃいましたね。まいったな♡でも、だからって手加減はしないっスよッ♡」
「のぞむところだちくしょうめ!!」
走りながら一護は必死に頭を使う。死神と虚を斬れるのは斬魄刀だけでは無いのか…あの細い刀は、杖から引き出した刀だ。あんなものが斬魄刀である筈がない。だったら斬られてもなんともない筈ーーー
浦原は、そんな一瞬の気の緩みを見逃す男では無い。帽子の下から一護を見据え、上から大きく刀を振り下ろす。それは彼の仮面を吹き飛ばし、こめかみを掠った。
チャラけた雰囲気等一切無く、故意に向けられる殺意にゾクリと背筋が恐怖に震える。吹き出る血に、何が起こったのか理解出来たのは一拍後だ。
「気を緩めましたね。"死神でもない奴が持ってんだから、アレは斬魄刀じゃない。""だから斬られても平気だ"と?つくづく甘い。起きろ。"紅姫"。」
「わ…喜助の斬魄刀、初めて見た…。」
「正真正銘斬魄刀ですよ。こいつはね。」
杖の持ち手部分がベキベキと変形していく。それは軈て柄となりただの刀に見えた彼の斬魄刀が本来の姿を取り戻す。しなりの無い、真っ直ぐな刀だった。始解した他人の斬魄刀を最後に見たのは、もう何十年も前であるが故にとても新鮮味が有りゆうりは感嘆の声を上げる。
「斬魄刀の…名…。」
「そう、斬魄刀にはそれぞれ名前があるんス。そしてこれが、彼女の名前。いくよ。"紅姫"。」
浦原が斬魄刀を一振りすると、一護の真横にあったビル2階分程の高さの岩が一瞬で砕かれた。
それから彼の攻撃は更に苛烈を極めていく。地を抉り、岩を破壊し容赦なく一護へと襲い掛かる。逃げても逃げても間に合わない。斬撃による周りへの衝撃も馬鹿にならなくなって来た。岩陰から1度離れ、近くで見ていたジン太は走ってウルルと握菱の隠れる岩場へ飛び込む。ゆうりだけはその戦いを間近で見たくて、少しだけ離れた岩の上から2人の戦いを見下ろしていた。
「ジン太どの!早く!!」
「おぉ!」
「…あらら…そりゃあ、本物の斬魄刀に比べて一護の玩具じゃ勝てるわけ無いよね。」
一護はまだ若い。年齢的にも、経験的にも。それ故、無知で短慮だと思った。相手の力を推し量れず、気持ちだけが先回る…まるで己の姿を映しているようで、ゆうりは苦々しく表情を歪める。