第9章 現世編(後編)
ジン太の言葉を切っ掛けに残っていた全ての鎖が目を覚ます。人の口に見えるものが鎖一つ一つに複数現れ、共食いでもする様に一気に互いを喰い合った。みるみる長さは短くなっていき、一護は冷や汗を流し目を見開く。
「ジン太!早く上がって!」
「お…おう!!」
「辞めろ……止まれよおまえら…っ!止…」
バキンッ、と金属が割れる音がした。胸元まで縮んだ鎖は穴を塞ぐ蓋のような金属までをも砕く。ジン太は上から聞こえる声にハッとすると壁の凹凸を器用に蹴り穴の外へと向かい、差し伸べられたゆうりの手に捕まった。下を見ると一護の瞳から、口から、どろりと白い液体が溢れる。それは次第に彼の顔を覆い、虚の仮面を作り上げていく。
「…あ゛…あ゛ァ…が…アアアッ!アアアアアアァアァアア!!!」
「………!」
「おいおい!やっぱあいつ虚になっちまったぞ!!」
「………え…?うそ、この霊圧……。」
ジン太はゆうりに引っ張り上げられ穴から這い出た。ウルルは一護の姿をジッと見詰め、ゆうりは両手で口を覆う。一護の霊圧が死神のものではなく、虚の霊圧へ変わっていく。変わりゆく中で、感じた事のある霊圧に驚きを隠せなかった。黒い虚と、どこか似ている。忘れたくとも忘れられない、あの感覚だ。けれど何故一護が…?
「………"救済措置"に入ります。」
「待った。」
「キスケさん…。」
「よくごらん、彼を。」
これ以上放置しては危険だと判断したウルルが片腕の肘をグッと押し込み立ち上がる。しかしそれを浦原が止めた。
彼に言われるがまま、一護に視線を落とす。ゆうりもその姿を目を凝らし見詰める。
「普通、整が虚に堕ちる時最初に霊体が爆散して組変わるもんス。ところが彼は順序がめちゃくちゃだ。体は整のまま、最初に仮面が生まれて来てる。これは彼の抵抗の証です。彼が死神に戻る可能性はまだ残ってる。もう少しだけ様子見ましょ。彼が本当に、虚になってしまうまで。ほんの、少しだけ。」
「頑張って、一護…。」
みるみると虚の姿へ変わっていく一護にゆうりの瞳が不安げに揺れる。浦原は彼の姿の変わり方が、過去に見た平子達に似ている事に眉を顰めた。
それからほんの数分、大きな変化が起きる。ビリビリと突き刺す攻撃的な霊圧に変わった。
これは、霊力が爆発する。