第9章 現世編(後編)
ゆうりが唇を開こうとするよりも先に井上の声が響き渡った。手を振りながら岩を這い上がって来る彼女に2人は驚き数度瞬きを繰り返す。井上の隣には茶渡と猫状態の四楓院が歩いている。
「…い…井上さん…!?…と…茶渡……くん?」
「なんで2人一緒に…あっ!?私達もしかしてお、お邪魔しちゃって…!!」
「違うよ、織姫。織姫が考えてるような事じゃないよ。」
顔をぽっと赤らめ両手で頬を抑える井上にゆうりは首を横に振るう。
それから4人で小さな円を描き座りながら彼女らがここまで来た目的を聞いた。どうやら2人は、尸魂界に行く事を決心したようでその為に四楓院にレッスンを受ける事になったらしく石田を誘いに来たらしい。
「……レッスン?」
「そう!尸魂界へ行くにはレッスンを受けろって言われて、どうせやるなら石田くんも誘おうと思って!」
「そうか…いや、君たちの霊力が最近急激に高まっていた事は気付いてたけど…まさかそんな形で話が進んでいたなんて……でも、師は?一体誰の指導を受けるんだい?」
「……ム…。」
「えっと…誰っていうか…ジツはその人、もうさっきから石田くんの隣に居るんだよね…」
「!まさか!?……染谷さん、君が…!?」
「いやいや、私と雨竜の間にもう1人いるでしょ?というか、1匹?」
「儂じゃ。」
「ぅわあっ!!?」
黙り続けていた黒猫、もとい四楓院が堂々と声を上げた。まさか猫が喋るとは夢にも思っていなかった石田の身体が大きく跳ねる。
「な…なななななんだ一体!?何なんだよこいつは!?」
「…何って言われても…」
「「…猫?」」
「見りゃわかるよそんな事は!!僕が言ってるのはどうして猫が喋ってるのかってこと…」
「夜一さんは訓練された猫だから。アニメでも居るでしょう?喋る猫。」
「それはアニメの世界だろ!?……い…いや…失礼…僕としたことが取り乱してしまった…見苦しい所を見せたね…。」
「まったくじゃ。猫が喋ったくらいで情けないぞ小僧。」
「喋るなあ!!」
ぶんっ、と四楓院を払う様に凪いだ手を黒猫はぴょんと飛び跳ねてあっさりと避けた。静かに着地した四楓院はため息混じりの言葉を吐く。
「順応性の低いやつよ。少しはあの小娘を見習ったらどうじゃ?話の本題はそこではなかろう。」