第3章 真央霊術院編
真っ黒な外套の後ろ姿は確かに細身に見えた。フードも被っていたし、性別の区別が付かなかったが振り返り、駆け寄ってきた彼女の容姿に驚く。パサリと静かな音を立てて晒された長い髪が靡き、瞳は今にも涙を零しそうな程濡れている。
何故彼女がこれ程までに悲しそうな顔をしているのかは分からなかったが、兎に角美人だ。
「六車さんと連絡取れませんか!?私、知りたいことが沢山あって…!」
「落ち着けって!悪いが俺はその人と繋がりはねぇんだ。」
「あ……そ、そうでしたか…。」
彼女は切羽詰まった表情から突如しょんぼりと肩を落とす。その姿がまるで小動物の様に愛らしく、ドキリと胸が高鳴った気がした。男は落ち着きを取り戻したゆうりの腕を降ろさせる。
「俺は檜佐木修兵。この刺青は、昔俺が虚に襲われた時助けてくれた人…尊敬してる人が入れてた刺青を真似たんだ。お前は?」
「そうだったんですね…。そうとは知らずにいきなり掴みかかって申し訳ございませんでした。私は染谷ゆうりです、よろしくお願いしますね、檜佐木さん。」
「俺たち同じ位の年齢だろ、別に敬語じゃなくて良いし、修兵でいい。」
「それじゃあお言葉に甘えて…。私もゆうりって呼んでね。」
「おう。ゆうりはこの辺りじゃ見ねぇ顔だけど、死んだばっかりなのか?」
「ううん、真央霊術院の入試を受けようと思って瀞霊廷に向かってたの。修兵は?」
「ゆうりも受けるのか?俺も同じだよ、だからここで斬、拳、走、鬼の力を少しでも上げられるように鍛錬してたんだ。」
「ざんけん、そう、き…?」
聞きなれぬ言葉にゆうりは首を傾げた。これから試験を受けるつもりだというのに、まさか知らないのだろうか。檜佐木は彼女へ丁寧に試験の内容について説明をした。
「紙での試験じゃないんだ…。私が出来るの鬼道しかないなぁ。」
「俺なんて2回落ちてるからな。今年こそ絶対受かるんだ…!!」
「私も、絶対死神にならないと…。試験っていつなの?ここから瀞霊廷は近い?」
「お前本当に何も知らねぇまま良くここまで来れたな…。試験は一週間後だ。ここからは遠くねぇし、1日有れば着けるぜ。」
「そうなんだ!やっと野宿から解放される…。」
「野宿!?」
「うん。」
「ははっ、見た目に合わず逞しいな。」