第3章 真央霊術院編
ゆうりは暫し沈黙を貫いた後、何かを決心するように力強く頷いた。差し出された彼の手を取り1度瞼を降ろし小さく唇を開く。
「…ー魅染めろ。胡蝶蘭。」
彼の…胡蝶蘭の姿が無数の花弁になって散った。花弁はやがてゆうりの手に収束し、姿を変える。
真っ白な刀身には胡蝶蘭の模様が金色の線で描かれており、長さはゆうりの身長よりもある。とても美しい見た目をしていた。
「これが私の斬魄刀…胡蝶蘭の姿なんだ。こんなに大きいのに重くない。」
『あぁ。これからもよろしく頼むよ。ゆうり。』
「うん、私…あなたをちゃんと理解して、使いこなしてみせるから。よろしくね。」
そう言って己の斬魄刀を抱いた所で、パッと目が覚めた。すっかり見慣れた天井、誰も居ない部屋。1つ違うといえば、布団に寝転ぶ自分のすぐ隣には精神世界で受け取ったはずの斬魄刀が並んでいた事だ。
「…行こうか、瀞霊廷に。」
長い髪を朽木から借りた髪紐で縛り、浦原から渡された黒いマントを羽織る。水を入れた竹筒と市丸から貰った鬼道の教本を持ちゆうりは家を出た。歩みを進める前に、玄関を出た所で振り返り家へ向けて頭を深く下げる。
「今までお世話になりました。随分時間が掛かってしまいましたが、必ず死神になってきます。」
決意を胸に、長年過ごした家を後にした。向かった先は真央霊術院のある瀞霊廷だ。今は春。まだ入学試験には間に合うだろう。
とはいえ、一体どんな試験が有るのかすらゆうりは知らない。兎に角試験を受けようと瀞霊廷へ向かい数日掛けて幾つかの丘を越え、森を抜ける。疲れた時はその場で休んだが、腹が減る事が無い事が救いだった。水も川で充分こと足りる。
「遠いな…間に合うのかな…。」
「誰だ?お前…こんな森の中で何してんだ。」
森の奥、河原で少しばかり休んでいたら不意に後ろから声を掛けられた。反射的に振り返ると自分と同じ位の少年が立っている。その頬に刻まれた数字の刺青に、ゆうりは目を見開いて彼に駆け寄るなり思い切り肩を掴む。
「六車さんとお知り合いの方ですか!?」
「うおっ!?い、いきなりなんだよ……っ、て…女…!?」