第9章 現世編(後編)
「…ビキニどこから持ってきたの?」
「触れないであげて、多分お姉さんのだからバレたら殺されると思う。」
高らかと持ち上げられたビキニにゆうりが無表情で小さく呟くと隣に座っていた小島がそっと耳打ちした。そもそもこの会話自体もはや彼の耳には届いていないようで、相変わらずハイテンションのまま高らかに腕を上げる。
「夏といえば海!海といえば夏!!というわけで私浅野啓吾は明日より十日間の海への合同合宿を提案するものでありまっす!!花火や肝試しから混浴露天風呂までありとあらゆるうれし恥ずかし企画が盛りだくさん!さあこの夏のご旅行は浅野ツーリング!浅野ツーリングへようこそ!!」
「わりィ、俺用事あるからパスな。」
「何ィあ!!?」
「イヤ…すまん。でもムリなもんはムリだ。」
「ごめん…あたしもちょっと…。」
「井上さんまで!?」
「あたしもインハイあるからむムリー。」
「…おりひめもたつきも行かないならあたしもちょっと…。」
「…俺も…今回は遠慮しとく…。」
「私も実家帰るからごめんね。」
「実家ってお前……。」
「あら、ある意味実家でしょ?」
すかさずじとりとした眼差しを向けてくる一護にゆうりは静か笑った。ぞくぞくと断られた浅野はこの世の終わりだとばかりの表情でちらりと小島を見る。
「あ、僕明日からプーケット。」
「てめえ!!!!」
「わああ!なんで僕にだけそんなキレるんだよう!!」
「誰とだ!?あの年上の彼女さんと2人で行くのか!?正直に答えろコラ!!」
「ち…違います!イヤおしい!!正確にはマリエさんとその友達9人と僕の計11人で行くの。」
「なんだその完璧な布陣は!?ベストイレブンかコラ!!ハリウッドスターみてーな生活しやがってー!」
「キャーーー!!」
あまりにもなんでもない日常だった。いつもと変わらない…筈なのに、1人欠けただけでは少しも違和感が無い事が、寧ろ違和感に思えて仕方が無い。そんな光景に一護は顔を顰める。ゆうりは一息ついて鞄を両手で持つと彼らの輪から外れた。
「私これから行く所から有るからそろそろ帰るね。皆また会おうね〜。」
「あァッ!染谷さん…。」
「俺も行くわ。じゃあな。」
「一護お前まで……!」