第9章 現世編(後編)
「…尸魂界がルキアの存在を消したんだと思う。誰も覚えていないでしょうから、下手な事は口走らない方がいいよ。」
「そう、か……。」
言われた言葉の意味は理解出来たが、それでも気味が悪い気がした。誰も、彼女の話を一切しないのだ。初めから存在すらしていなかったかのように。まるで自分まで幻を見ていたみたいに思えて恐ろしくなった。
それから終業式を終え、夏休み前最後のホームルームが始まったが、石田は来なかった。休みの理由は分からない。ただ霊圧を探ると別段揺らいでいる様子は無さそうだ。少し、遠い所に居るらしいが。
「さてと、以上かなあ。連絡事項は。ま、休みなんだから宿題なんて現国以外はテキトーにやんな!遊びも少しくらい犯罪気味の方が後々いい思い出になるよ!そいじゃアンタたち!9月まで死ぬなよっ!以上っ!解散!!」
「先生って時々教師とは思えない発言をするよね。」
「まーでもネチネチ煩いよりいいんじゃない?」
生徒たちは既に夏休み気分でこの後帰り何処に行くか、夏休み何処に遊びに行くか等の雑談に花を咲かす。ゆうりも有沢と話しながら宿題を鞄の中へ詰めていく。
皆が心浮き立たせる中、一護だけは仏頂面を崩さず頬杖をついて黒板を見詰める。そんな彼を見かねて接触を図ったのは浅野だ。彼は細いハチマキのような布を一護の後ろから目元にそっと掛け後ろで縛り、視界を奪われた状態の彼の両脇に手を差し込み無理矢理立たせぐるぐると回転させた。そしてさぞ楽しそうな顔を一護に近付け一言声を掛け木の棒を握らせる。
「さあっ!スイカどーーーこだ?」
「うわっ、痛そう。」
「何やってんだか…。」
バキッ、と音を立てて棒が浅野の頭を襲った。一護はコメカミに青筋を立て、目元が見えないにも関わらず真顔で立っているのが分かる。後ろでは小島が顔を青ざめやや引いていた。
「いやああああ!!ちっ…違う一護!違うぞっ!"浅野割り"じゃなくて"スイカ割り"!"スイカ割り"でござい!!」
結局、涙ながらに訴える浅野に根負けした一護、そして一緒に捕まったゆうり、有沢、井上、茶渡等仲のいい面々は教室を出て校庭の中庭に集まった。そこで、一体何処に隠し持っていたのか浅野は次々と夏の風物詩を鞄から取り出す。
「スイカ、ビーチパラソル、ウキワ、サンオイル、ビーチボール、サーフボード、そして水着!!」