第9章 現世編(後編)
話を無理矢理ぶった切る様にゆうりは両手をパンっ、と合わせスカートを翻し背を向ける。まだどこか釈然としない一護は唇をへの字に曲げるが、彼女がそれ以上話す気が無いのを察し渋々布団から抜け出し支度を始めた。
先に居間へ足を運んだゆうりはウルルの隣に座り箸を手に持って"いただきます"と小さく挨拶してから味噌汁に口をつける。
「チャドと織姫はどうするの?」
「彼らに関してはまだ明確なお返事を頂いてませんからねぇ。もし、尸魂界に行くと言うならば稽古は夜一さんにつけて貰います。」
「猫のまま…?」
ちゃぶ台の傍でミルクを飲む四楓院に視線を移すと彼女は無言で頷き口の周りをペロリと舐めた。そもそも2人に関してはまだ力が開花したばかりだ。十日で出来ることと言えば、今持てる力の使い方を覚える位である。四楓院がわざわざ元の姿に戻る理由は確かに無いのかもしれない。
「今回、黒崎サンのお勉強にはウルルにも付き合ってもらいますからねぇ!存分にやっちゃって下さい♡」
「ちぇっ、俺だってあのツンツン頭とバトりたかったのによー。」
浦原は隣に座るジン太を飛ばしその奥に居るウルルの頭に手を乗せ、犬を扱う様にわしゃわしゃと撫でる。頼られる事が嬉しいのか、何処か誇らしげなウルルに対しジン太は見るからに不機嫌そうに頬杖をついた。
着替えを終えた一護は居間に入るなりわいわいと騒がしい食卓を見て数度瞬きを繰り返す。以前彼女が家に来た時、良い家族だと言われたがそれは彼らも変わらない様に見えて思わず頬が緩む。
「あ、一護。隣どうぞ。」
「おう、朝飯まで世話になっちまってわりィな。」
「黒崎サーン?それは一家の主であるあたしに言うべき言葉なんスけど?」
「わ…分かってるよ、ンな怖い顔しなくても良いだろ!」
「どうせゆうりの隣でラッキー♡とか思ってるんでしょう?あたしの目が黒い内は可愛い愛娘に手は出させませんよ〜?」
「しつけーな、言われなくても出さねぇっての!」
「それはそれで傷付く…。」
「違……お前に魅力が無いとか、そういうのじゃなくてだな…!」
隣で頬を膨らませ小さく呟いたゆうりに彼はグッと言葉を詰まらせ慌てて両手を振った。慌てふためく一護の姿に、少しの間を置いて彼女は吹き出す。
「ふふっ、一護はからかいがいがあって面白いね。」