第3章 真央霊術院編
浦原が帰ってくる事はなかった。何年、何十年、何度も四季をたった一人で繰り返す。食料も無くなったが、涅から渡された腕輪のお陰で困る事は特に無かった。
何故帰って来ないのかゆうりには分からなかった。長期の任務?ただの多忙?……1番考えたくないのが、殉職。死神は化け物と戦っているのだから、隊長といえど戦闘中に亡くなる可能性がゼロという事はまず無いだろう。
市丸から貰った教科書は読み過ぎてボロボロになった。人のいない森で鍛錬を繰り返し、問題無く鬼道は使えるようにもなった。彼女自身の見た目も16歳ほどまでに成長してしまった。
「…私、貴女が居なかったら寂しくて毎日泣いてたかもしれない。ありがとう、お兄さん。」
『良いんだよ。僕はゆうりと共に常に在るべき存在だからね。』
そう言って目の前の男は優しく笑う。
ここは彼女の精神世界。何も無い、真っ白な空間には、同じく真っ白な髪に黄色の瞳をした20歳程の男が居た。髪の長さは左側の横髪が顎先まで長く、右側は頬までの長さしか無い所謂アシンメトリーの髪型だ。薄緑色の着物を身に纏う彼は何処か儚げな印象が有る。
浦原が帰らなくなってから、精神世界へ引き込まれる機会が増え、いつの間にかぼんやりとしか見えなかった彼の姿はすっかり視認出来るようになった。
『縛道も破道も使えるようになったのに、死神にはならないのかい?』
「…死神になるのが怖いの。」
『どうして?』
「真実を知るのが、怖い…。」
死神になり、瀞霊廷へ行った時受ける報せが浦原や四楓院達の死だったらとても耐え難い。知ることが怖くて、いつの間にかこんなにも時が流れてしまった。そして今も怖くて踏み出せずにいる。
『ここでずっと待ち続けるのか?帰って来るのか来ないのかも分からない男を。』
「それは…。」
『待っているだけでは何も始まらない。ゆうりにはちゃんと戦うための力が有る。』
彼はそう言って白く細い手を差し出した。ゆうりはその手を取れず、ただ男の瞳を見つめる。
「あなたが、力を貸してくれるの…?私と一緒に来てくれる?」
『勿論だ。たとえ辛い結末が待っていたとしても君と共に泣き、共に歩み続けよう。僕の名前はもう分かるだろう?』