第8章 現世編(前編)
「そんな無垢で子供のような所、ボクは好きですよん。だけどあまり男を舐めちゃあいけない。好きな人が自分に口付けて来れば期待もするし、ボクじゃ無ければその場で無理にでも抱いているかもしれない。なんなら、ボクだって我慢しなくても良いならいつだってゆうりに触れたい位ですし。大人としてボクが教えてあげますよ、悪戯に男を誘うとどうなるか。…そうすれば、少しは警戒心の1つ位は身に付くでしょ。でもって懲りたら気安く男に近づき過ぎないで下さい。」
浦原の言葉にハッと目を開いた。自分にとってはスキンシップの一環のつもりだったがその距離感がどうにも近過ぎたらしい。尸魂界で過ごしていた頃、キスもハグも求められれば断ること無く応えていた。嫌では無かったから。ゆうりは記憶の奥深くを辿っている内に気付く。…求められずして口付けたのは、彼が初めてだ。確かに何度か自分から口付けをした事は有る。
しかし己からただ単純に触れたいと思い、唇を寄せた事は無かった。彼の頬にキスをした時、完全に無自覚だった。
気付いた途端、急激に頬が熱くなっていくのを感じる。心臓がドクドクと早鐘を打つ。まさか、自分は浦原の事が好きだったのだろうか?そんな想いに混乱する。
「……何か凄い顔赤くなって来てるんスけど…大丈夫スか?」
「…………じめて、だった。」
「何が…?」
「求められたから口付けるんじゃなくて、自分が触れたいなってキスしたの……。」
「それ…ボクは期待、してもいいんスかねぇ…。」
両手の甲を目元に当てて朱色に染まった顔を隠し細々とした声で紡がれる言葉に彼は目を見開いた。
他の男とも同じ距離感で接しているものだとばかり思っていたのに。それを少しでも改められればと思ったのに。それがまさか、ボクだけ特別だったとは。
己の中の理性がプツリと切れた気がした。大切にしたい…そう頭では考えている筈なのに今はそれ以上に触れたくて仕方が無い。羞恥からか、白い肌を赤く染めるゆうりが愛おしくて堪らない。
「スミマセン、余り優しく出来ないかもしれない。」
「ちょ、ちょ…ちょっと待って…!今恥ずかしくて顔見れない…。」
「もー、そういうのが男を煽るんスよ!」