第8章 現世編(前編)
浦原の両手がゆうりの手首を掴みベッドへ縫い付けられる。見上げた彼の表情はいつも通り緩く笑っていた。その余裕とも取れる表情が悔しさを煽り彼女は唇を曲げ視線を流す。
「…意地悪。」
「好きな子ほど虐めたい、って言うでしょう?」
「ん……。」
端正に整った彼の顔が近付き自然と目を閉じればやがて唇が重なった。薄く熱いそれは何度も角度を変えて啄む。しんと静かな部屋にリップ音だけが響く。
ゆうりはうっすら目蓋を持ち上げると視線が交わった。唇を開き舌を覗かせた途端、彼の舌が躊躇い無く咥内へ侵入して来る。
「ふ、ぅ……!」
「は…っ。」
くぐもった熱っぽい吐息が肌に触れ、咥内に差し込まれた舌が上顎を擽り歯列をなぞる。自ら舌を伸ばし絡めると舌腹同士が擦り合う度、唾液が混ざる粘着質な水音を立てた。
口付けに没頭するさなか、浦原は手首を掴んでいた手を解放すると片手の指先をそのままそっと彼女の脇腹へ添える。細く括れた箇所を皮の厚い骨張った手が弛緩に往復を繰り返す。そのこそばゆさに身を捩った。
「ぁっ……ふふ…くすぐ、った…!」
「柔らかくて、暖かい。脱がせますよ。」
「喜助も脱いでよ、私だけなんて狡い。」
「ちょっと、ボクより手早いじゃないスか!」
唇を離した矢先ゆうりは静かに笑った。そんな彼女の服を脱がそうと寝巻きのボタンに手を掛けた所で、先に己の着物の結び目が解かれる。まさか先に脱がされるとは思っておらず目を丸めたが、直ぐに笑ってそれを脱ぎ捨てた。初めて見る彼の身体は顔と同じで男にしては薄い色をしており、細身では有るが程良く筋肉が付いている。普段研究ばかりで引き篭っているのにしっかり身体は出来上がっている事に少しだけ感心した。
「そんなに見られると照れますねぇ。」
「思ってない癖に…。」
今度こそとばかりに彼の手がボタンに触れる。下から1つずつわざとなのかどうなのかゆっくりと外され柔肌が晒されていき、心臓に手が近付くに連れてドキドキと高鳴っていく。全て外し終え、前をはだけさせた途端浦原は大きく声を上げた。
「下着着けてなかったんスか!?」
「夜は着けない派なの。」
「夜に行くって言いましたよねぇ?」
「そうだけど…寧ろそれで着けてたら準備良すぎじゃない?」
「まぁ一理ありますけど…。」