第8章 現世編(前編)
2人はゆうりを挟んで顔を合わせた。再び生を与えてくれた浦原とは全く別の、優しさに形容し難い感情が浮かびモヤモヤと拡がる。けれどそれは不快なものでは無く寧ろ何処か暖かく感じた。ジン太は突然立ち上がると腕を組み鼻を鳴らす。
「フンッ、話長いんだよ!もう行こうぜ!ウルルも立てよ!」
「あ…うん。」
「ふふっ…私の事はお姉ちゃんって呼んでも良いんだよジン太くん。ウルルちゃんも、ゆうりさんなんてよそよそしい呼び方しないでゆうりちゃんとか呼び捨てでも良いんだからね。」
「誰が呼ぶか。」
「じゃあ…ゆうりお姉ちゃん?」
「ウルルちゃんは素直で可愛いなぁ?」
「…んだよ、こっち見んじゃねぇ!」
ゆうりはウルルと共に立ち上がり、小首を傾げつつひっそりと名前を呼んだ彼女の頭をこれでもかとばかりに撫でながらジン太を見た。無表情ながらもふわふわと花が舞いそうなウルルとは対称的にジン太は怒鳴りながら地団駄を踏む。
「ジン太くんって、私の元隊長に似て意地っ張りで素直じゃないところがそっくりだから、ついからかいたくなっちゃうのよね。」
「オメー本当に俺たちとナカヨクなる気あんの…?」
ひくりと頬を引き攣らせる彼の手を強引に取ると反対側の手をウルルと繋ぎ、今度こそ3人はデパートへと向かった。平日という事もあってかそこまで人が多くは無い。まず3人が足を運んだ先はおもちゃコーナーだ。先に食品コーナーに行き荷物が増えれば動きにくくなる。
可愛らしい動物のぬいぐるみ、ヒーローのソフビ人形、ゲーム機、パズル、なんでも揃っており2人は目を輝かせ今にも走り出しそうだった。ゆうりは彼らが飛び出さない様にと両手にグッと力を込め直す。
「なんでも好きなの一つだけ買ってあげる。でもここはお店だから走っちゃダメ!壊したり、口に入れたり汚すのもダメだよ。2人とも分かった?」
「分かった…!」
「分かった!!俺ボール見てくる!」
「ウルルちゃんはどうする?1人で見に行く?私と行く?」
「あの…一緒に行きたい、です…。」
恐る恐ると顔を上げたウルルにゆうりは笑って頷いた。野球やサッカー等スポーツ用品を見に行ったジン太に対し2人は可愛らしいぬいぐるみや着せ替え人形、ママごとセットなどを見て回る。