第8章 現世編(前編)
「…他人を好きになる事なんて出来ません。」
「何故じゃ。」
「大切な家族も、海燕さんも、部下も殺されてしまった。大切に想う人は、皆藍染に殺されているんです。そんな私が誰かを愛してしまったら、きっとその人は藍染に殺される。それが分かっていて、好意を寄せる事なんて私には無理なんです。藍染は私が嫌がる事を態とする男だから。」
「………まるで、酷く嫉妬深い男の様に聞こえるな。」
「全くですな。」
「嫉妬…?そんなんじゃ無いですよ。周りより霊圧の高い私で遊びたいだけなんですよあの人は。第一、嫉妬云々で周りの人を殺すなんて過激にも程があります。」
「実際過激じゃろうて、尸魂界そのものを滅ぼそうと企てておるような奴じゃ。」
「それは…確かに。」
ふっ、と学生の頃を思い出した。市丸だと思い暗がりの中追い掛けたあの日、初めて他人と唇を重ねたあの時。あれは市丸ではなく藍染だった。その時に彼の囁いた言葉は市丸を演じた末の言葉だったのか、はたまた自分の意思をも混じえた言葉だったのか…。
到底後者とは思えないが彼がもし、私に対しただの玩具とは別の感情が有るのならば傍に着く事で何かしらの被害が減るのでは無いのだろうか。それこそ、真っ向から敵対を続けるよりギンと同じ様に彼の懐へ潜り込む事こそが何より良いのでは無いか…そんな事を思う。だけど私はギンみたいに彼に対し従順では居られない。誰かを殺そうとするのならば、きっと止めてしまう。
「…難しいものですね、他人を理解するって。」
「他人の事で思い悩むようになったなら、それは成長の証でも有る。存分に悩むが良い。」
再三悩んでも出て来るのは溜息だけだった。そんな彼女に四楓院は笑う。
「ただいま帰りましたぁ〜。」
「あっ、喜助おかえ………えっ。」
玄関口から聞き慣れた声が店に響く。ゆうりは直ぐに振り替えるなり声のした方へ走る。続いて四楓院、握菱も向かった。そしてそこで見た光景に愕然とする。彼の両サイドには小さな子供が2人立っていたのだ。1人は赤い髪をした目付きの悪い3歳位の男の子、もう1人はツインテールをした黒髪でタレ目の6歳位の女の子。
「長い間帰れなくてスミマセン。元気でした?」
「元気だけど……えっと…喜助の隠し子?」
「ヤダなぁ!ボクに子供なんて居ませんよぉ!」