第8章 現世編(前編)
カランカランとベルの音が響き渡る。周りを行く人達の視線が集まる中でゆうりはポカンと口を開いた。
「大当たり〜!!1等の温泉旅行ペアチケットだよ!」
「……あ、ありがとうございます。」
町おこしの一環で行われていた福引券を5枚集め、折角だからと買い物帰りに回した結果、今に至る。適当に日用品が当たれば…程度の気持ちで回した為コロコロと飛び出してきた金色の玉と受付の声に反応が遅れた。
しっかりと白い封筒に包まれたチケットを受け取り実感の湧かないまま浦原商店へ足を向ける。ペアチケットとはまた随分扱いにくいものを当ててしまった。
「うーん…どうしようかな、これ。」
チケットを口元に宛てて困ったように眉を下げる。今浦原商店で暮らす人数は4人だ。2枚足りない。そもそもゆうり自身そこまで興味が無かった。
店へ帰って来ると相変わらず客は居らずガランとしている。靴を脱ぎ、買ってきた食材の袋を両手に台所へ立つと冷蔵庫の中へしまっていく。
「おかえりなさーい!スーパー、混んでました?」
「ただいま、喜助。そうでもなかったよ。…ねぇ、渡したいものがあるんだけど…。」
「ハイハイ、なんスか?まさか福引で1等でも当てちゃいました?」
「あれ、良くわかったね。」
冗談のような軽口を叩く彼に向かってポケットから取り出した封筒を差し出す。まさか本当に出て来ると思っていなかった浦原は目を丸めそれを手に取った。
「本当に当てちゃったんスか!?」
「そうなんだけど…これペアチケットなの。2人しか行けないし…喜助、夜一さんと行く?」
「ワシは行かんぞ。」
「あっ、夜一さん。」
台所へひょっこりと顔を覗かせたのは猫の姿をした四楓院だった。長い尻尾をゆらりと揺らし足音も立てずゆうりの元へ歩み寄る。話は聞いていたらしい。
「喜助と2人で旅行に行ったところで気が休まるとは思えん。」
「酷いなぁ、あたしだって研究室さえなければ大人しいもんですよぉ。」
「じゃあテッサイさんと喜助で行く?お店は任せて。」
「男二人で温泉なんて、何が楽しいんスか…。」
チケットの行方に頭を悩ませたゆうりは小さく唸った。いっその事平子達にあげてしまうのがいいのでは無いだろうか…そんな事を思う。
「ゆうりと喜助の2人で行けば良いじゃろう。」