第8章 現世編(前編)
「だぁいじょうぶ!平子サン達は、ゆうりが会ったようにちゃんと生きてます。ボクが尸魂界へ行くことは叶いませんが、必ず藍染は止めますよ。」
「…ねぇ、もし疑いが晴れたら喜助は尸魂界に戻らないの?ずっとここに居るつもり?」
「戻りませんよ。もう十二番隊隊長の座は涅サンに譲りましたし、今更返せなんて言うつもりは有りません。それに、こっちの方が案外自由に研究出来ますしね〜。」
「昔から本当に研究好きよね。よく引きこもっては目に隈作りながら出て来たっけ。」
「そうでしたっけ?ゆうりは雷嫌い直りました?」
「……。」
「その様子じゃ変わらなさそうですねぇ!」
「何で嬉しそうなのよ!」
「決まってるじゃないスか、また雷鳴ったら一緒に寝てくれるでしょう?そうすれば、ボクの寝不足も解消されるしゆうりは怖くないし一石二鳥!」
「雷なんて鳴らなくても一緒に寝てもいいのに。」
「…茶化すつもりで言ったんですけど、そんな反応が返って来るとは思いませんでした。何の建前も無く男と女が褥を共にする意味、分かってます?」
「分かってますよ?だってもう、無垢な子供じゃないもの。」
ゆうりは彼の唇へ、そっと人差し指を宛てていたずらっ子みたく笑う。己の被せた帽子から覗く翡翠色の瞳はまるで挑発する様な色を帯びていて浦原はひくりと頬を引き攣らせ唇に乗せられた彼女の手を掴む。
「あらら…おかしいっスねぇ。ちょっと前まではなんていい子に育ったんだろうって思ってたんスけど、大人を揶揄う悪い子になってしまったようで。」
「子供を誑かした悪い大人に言われたくないわ。」
「それは耳が痛いっスね…。」
うっ、と言葉に詰まらせた浦原を見てひっそりと笑いゆうりは立ち上がった。少し遅れて彼も立ち上がり服についた汚れを手で払う。空を見上げればすっかり茜色の空だ。
「帰ろう、喜助。夜ご飯何食べたい?」
「そっスねぇ…ゆうりが作るご飯なら何でも食べますよん。」
「知ってる?お母さんが何食べたい?って聞いた時の返答で、一番困るのって何でもいいって答えらしいよ。」
「そりゃ参りましたね…じゃあ肉じゃがとかどうです?」
「ふふ、いいね!」
人通りの少ない道を2人は歩く。その後ろ姿は数年前とは違い、まるで恋人同士のようにも見えた。
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