第8章 現世編(前編)
「これまた…綺麗になったとは思ってましたけど、それ以上に男の扱いを随分学んで来ちゃったみたいですねぇ。」
「くせ者ばっかりだったから。…でも、喜助さんを呼び捨てにするのはなんか照れるね。」
「ボクはアナタに呼び捨てで呼ばれるのは嬉しいですよん。それに、そもそも平子サンに先越されたのは今も根に持ってますし。本来なら、駐在任務に来ていた時ボクが迎えに行きたかった。」
「あれ、駐在任務に来てたの知っていたの?」
「当然ですよん。空座町の隣でしたからねぇ。虚と戦っている時は特にゆうりサンの霊圧ここまで届いてました。」
「来てくれれば良かったのに…。」
「平子サン達も居たんですよ?行きにくいですって。」
ケラケラ声を上げる浦原にゆうりも頬を綻ばせる。軈て川の畔にまで来ると2人は腰を下ろし座った。水辺だからか肌を撫でる風が冷たい。ふわりと靡く長い髪を耳に掛け、視線を川へ向ける。
「ゆうりサンは死神になってから、どんな生活をしていたんスか?」
「別に普通の死神と変わらないよ?仕事して、鍛錬して、飲み会したり、甘味処に行ったり…大切な友人が沢山出来たの。辛いこともあったけど、死神になって本当に良かった。」
「それは良かったです。…ずっと忘れられなかったんスよ、残してきたアナタの事。戦う術を知らない、何処か弱々しくまだ幼なかったゆうりサンをボクが護らなきゃ…そう思っていたのにあんな事になってしまった。けれど、ゆうりはボクが思っているよりずっと心が強かったみたいだ。」
初めて呼び捨てで呼ばれ驚きパッと顔を向けると深く帽子を被った彼の瞳と視軸が絡んだ。昔と変わらない穏やかな瞳はとても大切なものでも見るように細められる。ゆうりは過去、彼が去る前に話した事を思い出す。
「…私も喜助の事、忘れた事なんて1度も無いよ。怒ってもない。ずっと心配してた。霊圧も感じられないし、死んでしまったんじゃないかって、それだけが不安だった。私は貴方を信じていたから、捨てられたなんて思わなかったわ。」
「アナタがボクを信じてくれた事も、そしてボクを探す為に死神になった事も正直、凄い嬉しかったんですよ。…ゆうり、ボクの家に居た時最後に話した事、覚えてます?」
「えぇ、もちろん。」