第8章 現世編(前編)
「ゆうりサーン、良かったらボクの散歩に付き合ってくれませんか?」
「散歩ですか?もちろん構いませんよ。」
ゆうりが浦原商店に辿り着いてから一ヵ月ほどの時が過ぎた。先に現世へ移り住んでいた浦原や四楓院、握菱からこの空座町の何処に何が売られているのか時折案内を受けつつ上手くこの地で羽を伸ばし生活を送っている。時折死神や虚を見掛けるが、決して干渉する事は無かった。
「ありがとうございます。いやー、中々2人で話す機会が無かったんで。じゃあ行きましょうか。」
「ふふ、そうですね。夜一さんとテッサイさんも居ますし。」
差し出された手に手を重ねしかと握り返し店を出る。外はまだ明るく、少しばかり肌寒い。尸魂界にいた頃と変わらず、彼の下駄がカランコロンと音を奏でる。
「いやぁ、まさかゆうりサンとこうして現世をフラフラする日が来るとは思ってもみませんでしたねぇ。ちょっとは慣れました?」
「はい、元々駐在任務が長かったんで、店の場所さえ覚えれば特に不自由はありません。それにしても、空座町は本当に虚の出現が多いですね。」
「重霊地ですからねぇ。そういえば駐在任務の期間は平子サン達と過ごしてたって言ってましたっけ。皆さん元気でした?」
「もちろん、何も変わって……いや、髪型変わってたりはしていたけれど、それ以外は昔のままですよ。ひよ里ちゃんと真子は相変わらず喧嘩ばっかりしてるし、白さんは自由奔放だし、拳西さんはそんな白さんの保護者みたいになってたし…。」
「ストップストップ!ずっと気になってたんスけど、平子サンと仲良くなり過ぎじゃないですか?前は名前で呼んでこそ、呼び捨てでは無かったですよね?」
「そうですね、現世に来てからもう隊長じゃないし気を使う必要は無いって言われて……あ。」
話途中、何故彼がそんな事を聞いてきたのか察し、ハッとして隣に立っている男をチラリと見た。いつも飄々としていて掴み所のない彼が少しだけ不貞腐れているように感じる。なんとなく、この男と平子はどこか似ている気がした。
ゆうりはクスクスと静かに笑い繋いでいた手を一度離すなりソロリと指を絡め手繋ぎ直す。男らしく大きく、皮の厚い手から仄かに熱が伝わり暖かかった。
「…私、喜助さんとも同じ様に話したいな。」