第8章 現世編(前編)
「喜助さん…私、藍染を止めたいんです。だけど今の私じゃ敵わない…戻ったところで、返り討ちに遭っちゃう。だから、暫くここに置いて貰えませんか?」
「なーに言ってるんです?元々そのつもりですよん!ゆうりサンにはボクと一緒にここで過ごして欲しい。もう、見えない所に置き去りにしませんしボクも勝手に何処かに行ったりしません。藍染に関しては…ボクが何とかするんで、ゆうりサンはこれ以上何も」
「嫌です!」
「えっ。」
言葉を遮り声を荒らげたゆうりに浦原はパチパチと瞬きを繰り返す。彼女は少し不服そうな顔で彼を見ると、扇子を持つ手が握られた。最後に見た日と変わらない、澄んだ翡翠の瞳と視軸が絡む。
「私はもう、護られるだけの子供じゃありません。喜助さんと同じ死神です。隣に立って、戦えるようになる為にここまで来たのに、何もするななんて酷いじゃないですか。私にも護らせて下さい。喜助さんも、夜一さんも、握菱さんも。」
「…ほんと、ちょーっと見ない間に随分大きくなりましたねぇ。」
「ちょっとじゃありませんよ!!何十年も会っていません!」
「ははっ、確かにそうでした。死神になって感覚可笑しくなってたみたいっス。」
何も知らず霊圧の制御すらままならなかった子供がここまで成長するなんて。感慨深いというかなんというか。芯が真っ直ぐで、強く、いい子に育った。アタシが居なくても彼女が道を違う事なんて無かった。…親心ってこんな感じなんスかね。頼られなくなるのが少し寂しい、なんて柄にも無い事を思う。
浦原は自嘲気味に笑いゆうりの頭をくしゃくしゃと撫でた。
「ゆうりサン、ボクも藍染達の企みは潰すつもりで居ます。これからもっと茨の道を進む事になるかもしれません。それでも一緒に戦ってくれますか?」
「当たり前じゃないですか。喜助さんの力になれるなら、どんな道でも隣に居ます。」
力強く頷き瞳を細め微笑むゆうりに浦原は心臓が高く脈打つのを自覚した。美しく育ったとは思ったが…彼女の言葉一つ一つが愛らしくて堪らない。長い時、会う事は叶わなかったがそれでも抱いていた感情に1つも変わりは無かった。
「決まったようじゃな。これから宜しく頼むぞ。」
「これでこの店にも看板娘が出来ますな!」
こうして、現世で新たな生活が幕を開けるのだった。
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