第8章 現世編(前編)
「ふふっ…急に真剣な顔して何かと思ったら。喜助さん、私はちゃんと貴方に護ってもらっていましたよ。喜助さんが生きてるって知っていたから死神になる為の試験も、死神になった後も頑張れたんです。貴方が死んでしまっていたら、私も全てを諦めて命を捨てていたかもしれない。私を護ってくれたのは誰でもない、喜助さんです。昔も、今も。」
「ゆうりサン…!!」
「ほう、強く育ったもんじゃな。喜助も親として…それはもう親として、誇らしかろう。」
「ぐっ…!猫なのにニヤニヤしてる顔がよく分かる…。」
ゆうりの言葉に心臓がキュッと一瞬握られるかの感覚に浦原は唇を引き結ぶ。彼女の隣に座っていた四楓院に視線を落とすなり人間程表情豊かではないハズだが、何となく人間の彼女が揶揄うように口角を釣り上げ笑う様子が想像に容易かった。浦原の頬がひくりと引き攣る。
「時にゆうり、お主は事件を何処まで知っておるのじゃ。」
「真子から聞いたのは藍染達の裏切りに遭った事と、虚化実験の罪を喜助さんが着せられて、助けた夜一さんも巻き込まれて追放になってしまった事を。握菱さんに関しては多分私が面識が無かったので特に何も言わなかったんだと思います。」
「なるほど…思った以上に詳しく知っているみたいですね。補足するとすれば、厳密に追放されたのはボクだけでテッサイと夜一サンは追放まではいってません。それ以外は概ね平子サンから聞いている通りです。」
それからゆうりは、死神になった後の事を話した。四番隊に務め、六番隊を経て十番隊に異動した事。平子達と現世で密に接触を果たし、藍染とは既に敵対関係に有り母親や海燕が殺された事。最終的に、藍染の完全催眠により部下を手に掛けてしまった末ここまで逃げてきた事を伝える。卍解を会得した事と市丸のことに関しては何となく伏せた。
「随分目を付けられてるようじゃな。その霊圧の高さ故か、それとも別の理由か…。」
「…色々、でしょうねぇ。」
浦原は口元を持っていた扇子で隠し思考を巡らせた。矢張り彼の目的は王鍵の創成及び霊王の殺害…となると重霊地となるこの空座町を狙うだろう。