第8章 現世編(前編)
あの時一体何をするのがベストだったのか。何処から判断を誤ったのか、そんな問答を繰り返しては答えに辿り着けずに瞼を降ろす。
「今でも、彼らを殺した感触が消えないの。虚は倒されると尸魂界へ送られるのが分かっているから罪悪感を感じた事はないんだけど、死神を殺したんだよ…?そんな私がのうのうと喜助さんと再会を喜ぶ事なんて出来ないよ…。」
『君には卍解が有るだろう?まぁ、今のゆうりでは使いこなすのは難しいから、彼らが再生されるのはここでは無く死んだ場所になってしまう。わけも分からないまま蘇生した彼らを見られれば瀞霊廷に無用な混乱を招く可能性が高いし、今は勧めないけれど。』
「卍解が有るから大丈夫、なんて考えで居たら…私これ以上強くなれないしそんな想いじゃ藍染は…止められない。」
生気の灯らない眼差しで地を見詰めながら震えた唇で呟くゆうりに胡蝶蘭は瞳を細め、彼女の頭に掌を置いた。優しく撫でる手つきに顔を上げれば彼は微笑む。
『その通りだよ。藍染惣右介は強い。霊圧の高さは勿論だが、鏡花水月の能力に加え智略に優れている。彼と同じ土俵に立つにはまず、目の前の事だけでは無くその二手、三手先の事まで思考を巡らせなければならない。ゆうりはいつも目の前の事に囚われすぎているよ。』
「う……。」
『それでは、力を持っていても勝つ事は出来ない。もう少し視野を広げ余裕を持てるようになるといい。それと…今は無理でも完全催眠は、ゆうり自身ならば回避する事が出来るよ。』
「どうやって!?」
『僕の卍解は回帰能力の増強だと話しただろう。それともう一つが、再構築。これは、君の"優しい母親に変わればいいのに"という想いから生まれた力だね。死んでしまい、散ってしまった霊子を集め蘇生させるのもどちらかといえばこちらの力だ。』
「うん…。」
『つまり回帰で過去を辿り、再構築で鏡花水月の始解を見た時の記憶を取り除く。細かい調整が必要になるから、練度が要るし難しい。間違えれば他の記憶を消してしまうリスクもある。それでも、消したいと願うなら付き合おう。』
「回帰能力と、再構築の力を同時に扱えるようになる必要があるって事ね…。分かった。やるわ。」