第7章 死神編【後編】
その時だった。ドスッ、と腹に衝撃が走る。程なく、胃から逆流してきた血液が口から吐き出された。ゆっくり視線を落とすと、赤く血に濡れた刀がゆうりの腹を背中側から深く貫かれている。
「…な、にこれ……。」
「やった…!僕でも、虚を倒せた…!!」
「瑠衣…く…?」
背後に立っていたのは昨日、手合わせしたばかりの男だった。彼の手には斬魄刀が握られており、それが彼女の腹を貫いたのだ。虚の気配は完全に無くなっていたから、油断していた。
虚を倒せた…?何を言っているんだ彼は。…いや、とにかくこのままではまずい。
ゆうりは男の手を掴むと無理矢理、斬魄刀を引き抜かせた。臓器を引き裂かれる痛みに顔を顰める。
「ま…まだ生きてるのか…!!クソッ!希一と透の仇…!」
「ちょっと、待っ……!」
彼は再び斬魄刀を握り直し震えた手で襲いかかって来る。ゆうりはとめどなく血が吹き出してくる右脇腹を左手で抑え、右手に胡蝶蘭を持ち始解もせず太刀を受けた。刀が交わる瞬間傷口が酷く痛む。
反撃する事は出来なかった。何故なら目の前の男は隊士なのだから。何故こんな乱心してるのか、分からないが。
「何で攻撃して来ないんだよ…!!」
「出来るわけ、ないでしょ…!」
「希一達を殺したように、攻撃して来いよ!!虚!!」
虚?
どうやら彼に私は虚に見えているらしい。……仕方ない、一旦白伏で意識飛ばそう。
「ごめんね。」
ゆうりは赤く染った左手を彼に向けると白い光が弾けた。途端に瑠衣は目を開いたまま意識を失い倒れる。
高度な鬼道を使ったせいか、再び血液が逆流してくる感覚に顔を青ざめ、倒れる男から背を向け吐き出した。腹もさっさと止血しないと。ゼェゼェと呼吸を荒くし、治癒霊力を己の身体へ充てようとしたその時、目の前で黒い布がはためいた。
「藍染、隊長…。」
「酷いことをするな。まだ若く、実戦経験も少ない隊士を手に掛けるとは。」
「…白伏なので殺してません。意識が混濁していたので、一時的に気絶させただけです。」
「私は今そこで倒れている彼の事を言っているのでは無い。もっと周りを見てみたらどうだ?」
「周り……?」
外套を纏った藍染に言われて周囲に視線を配せた所で言葉を失った。