第2章 過去編
「白哉さんって手先が器用なんですね。というか、何故私に…?」
「私の髪紐を貸しておく。再び会う時まで持っておけ。」
「でも………んむ。」
「口ごたえはさせん。」
後ろからそっと掌が口元を覆った。ゆうりは言葉を発せられぬ代わりに、こくこくと小さく頷く。
掌が離れるとゆうりは身体を捻り彼に向き直った。
「大切に持っておきます。必ずまた会いましょう、白哉さん。」
「無論だ。」
それから2人は暫く談笑を楽しんだ。日が暮れ始める逢魔時に四楓院が屋敷へとやって来た。縁側に座り話している2人の髪型が入れ替わっていることに気付いた四楓院はニヤニヤと口元を緩める。
「お?なんじゃお主ら随分仲睦まじくなったのう?」
「ふふ、白哉さんって優しいんですよ。」
「この化け猫の前で余計な事を言うな。」
「うっ。」
先程と同じように口を塞がれ言葉に詰まる。四楓院は相も変わらずニヤけた顔で朽木へ一瞥くれた。
「良いのか白哉坊。今やゆうりは隊長、副隊長から至極甘やかされておるからなぁ。余り虐めてやると盗られてしまうぞ。」
「…何?」
朽木の眉がピクリと揺れた。まだ死神では無い己は彼女がどのように過ごしているのか等は知らない。もちろんゆうりから甘やかされてます、なんて言葉が出てくる訳もない。今更知った新たな事実に彼は不機嫌そうに眉を寄せる。それが四楓院にとって面白くて堪らないらしい。
ゆうりは口を塞ぐ朽木の掌を両手で掴み強引に下ろした。
「もう、夜一さん!皆さん私が子供だから世話焼いて下さっているだけですよ。」
「ほう?ただの子供と思っておる相手に口付けたりタメ口で会話させたりすると本気で思うとるのか?ましてや隊長が。」
「それは……いや、というか何故それを知って…。」
「ふはは、何故じゃろうなぁ?」
唇に弧を描かせる四楓院。ゆうりは横に座っている朽木へチラリと視線を向けた。完全に無表情だ。何を考えているのか全く分からない。
「ゆうり。」
「はい。」
「彼奴の話は真か。」
「ま…まことです。」
今だからこそよく分かる気がした。多分彼は怒っているのだ。霊圧が上がっている。だが何故怒っているのかまでは理解が出来ない。
「私の事は白哉でいい。敬語も要らぬ。」
「えっ、あの」
「2度は言わん。」