第7章 死神編【後編】
「中学生位の時に、20歳ちょっと位の男にかな。今考えると凄いよね、歳の差。まぁ死神になったし、追い付いたら見た目も余り変わらないから、今会ったらそれも気にならないかな。」
「…へぇ。」
ゆうりの言葉に日番谷は小さく呟く。彼は彼女の右手首をゆっくりと持ち上げる。不意に動いた腕に視線を落とすとそのまま掌は日番谷の口元へ運ばれ、薄い唇が小さなリップ音と共に手首の内側へ触れた。思わずゆうりは目を丸めて彼を見下ろす。
「…え、冬獅郎?」
「歳の差気にならねェなら、俺がお前を狙っても良いって事だろ。」
「……正気?さっきも言ったけど、私は八方美人なだけだよ。誰にでも優しくするけど、誰の気持ちにも応えない様な最低な事してるんだよ…?」
「俺は、その中でもゆうりの特別になりたい。」
「う……。」
真っ直ぐな瞳と言葉に眉を下げて言葉に詰まらせた。確かに歳の差等気にならないと言ったのは自分だ。今まで恐らく歳上か殆ど同じ年齢の男からしか好意を寄せられていなかったゆうりは、まさか歳下の彼にまで言い寄られるとは思わずたじろぐ。
「大人をからかうものじゃないよ…。」
「歳下を甘く見るなよ。」
「…もー!私はただ平和に過ごしたいだけなのに!」
「モテるってのも大変だな。」
「君が他人事みたいに言わないで欲しいんだけど。」
「別に、直ぐ答えが欲しいと思ってねェ。」
「今すぐ答えろって言われてもはぐらかすけどね。」
「…だろうな。」
八方美人とは言うが、誰にでも等しく平等に優しくする、なんて普通やろうとして出来ないだろ。そして何よりその優しさは損得勘定では無く純粋に人を思っての事だと知っているから、1つも悪いと思えねェし、コイツが好かれる理由なんだと思う。
日番谷の告白を受けてなんとも形容し難い顔を浮かべながら腕を組み唸るゆうりを見て、彼はふと静かに笑った。
「ちょっと、何笑ってるの。」
「面白れェ顔してるぞ。鏡見てみろよ。」
「誰のせいだと思ってるのよ!」
頬を膨らませた彼女は怒ったまま稽古場を出て行く。
誰よりも強く、それをひけらかす事はせず、上手く後輩とも付き合い上を支える。出会った頃から変わらずコロコロ変わる表情にいつの間にか目が離せない。昔森で抱いた感情の正体が今ならハッキリと分かるような気がした。
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