第7章 死神編【後編】
木刀を手に取り天井へ向け持ち上げてから勢い良く振り下ろす。ゆうりが不敵に笑うと、佐々木とは別の男が手を挙げた。
「僕が行きます。十番隊寿賀野瑠依です!」
「瑠依くんね。良いよ。」
ゆうりより身長が高く、黒く長い髪をポニーテールの形で1本に束ねた少年、瑠依は木刀を両手でしっかり握った。出遅れた面々は邪魔に成らぬ様にと部屋の端に避け正座して2人を見守る。
寿賀野はゆうりとの間合いを確認し、静かな呼吸を繰り返す事で精神を集中させた。そして音を立てる事無く一気に距離を詰め、彼女の腹を目掛け木刀を突き出す。
「わっ、結構早い。」
「うわっ、本当に避けられた…。」
片足を引いて身体を横にする事で避けたゆうりが今度は木刀を振り上げ振り下ろす。彼は刃を上に向ける形で木刀を返し受け止めた。木製の刀が交わる度カンッ、と小気味いい音が響く。
寿賀野は動きが素早く代わりに力は余り強くない。どちらかといえばゆうりに似たタイプだった。ある程度太刀を見終えた彼女は瞬歩で彼の後ろへと周り思い切り木刀を横に振るう。視界に捉える事すら出来ずいつの間にか背後に回られた寿賀野は、首の横に押し当てられた木刀に息を飲む。
「良いね、瑠依くんはもっと筋力付けて歩法を伸ばせば強くなれると思うわ。」
「あ…ありがとうございます!」
汗を流しながら彼は頭を下げる。少しだけ悔しかった。三席といえど、まさか目隠しというハンデを持ってして一太刀まともに浴びせる事すら出来ないなんて。
「次俺!俺お願いします!!吾妻透です!」
直ぐに挙手したのは大柄で茶色い髪をオールバックにした男だった。見るからに、パワータイプに見える。
「いいよ、やろうか。」
滴る汗を死覇装の袖で拭い仕切り直す。その後、6名程の隊士と手合わせを行う。男相手に何度も木刀を振るうのは少し疲れたが、楽しいと思えた。
手合わせをしている中、誰一人としてゆうりへ太刀を入れられる者はいない。後半になれば疲れて来る筈なのに、その様子も無い。刀を交えた隊士達はそんな彼女にただただ強烈な憧れを抱く。途中から観戦していた日番谷も又、改めて見る彼女の強さに言葉を失った。平隊士とはいえ同じ真央霊術院で、同じカリキュラムを経た筈なのに。ここまで違いが出るのは才能の差なのか、努力なのか。