第7章 死神編【後編】
ぶっきらぼうに聞こえた言葉にキョトンとしたが、直ぐに彼女は笑う。まさか彼がそんな事を考えているとは思いもしなかった。確かに、ここに来るのは仕事の依頼の時だけだ。意図して避けてた訳では無い。そもそも、ここだけ圧倒的に雰囲気が違いすぎて近付きにくいのだ。
「ふふっ、まさか阿近がそんなこと言うとは思ってなかったわ。」
「…何笑ってんだよ。」
「別に。可愛いこと言うなぁって思って。小さい頃はドライだったのに。」
「年取ればある程度変わるだろ。お前だって変わったし。」
「そう?」
「美人になった。」
「…ん?」
「身体付きも女らしくなった。」
「…阿近?」
「強引な所は変わらねェけど、人に頼る様にもなった。」
ググッ、と少しずつ身体に体重を掛けられ後ろへと倒れていく。軈て完全に背中が床へと密着する頃には、彼が体躯へ跨りゆうりを見下ろしていた。
「あの…。」
「レコーダーの料金、お前の身体で払ってくれても良いんだけど。」
阿近の片手の掌が頬へ寄せられ仄かに熱を持った指先が顎先から首筋を伝い降りて来る。こそばゆさにゾクゾクと背筋が震えた。
「…縁側で膝枕する?」
「……は?」
「阿近、寝不足っぽいもの。久しぶりに、行こう!」
「あ?な…おい!」
彼の両肩に手を置いたゆうりは力任せに身体を起こすなり、阿近の手を取って十二番隊隊舎内の縁側へと向かう。手を引かれた彼は、上手く躱された事に内心肩を落としながらも彼女について行った。
目的地へ到着すると直ぐに縁側へ腰掛けたゆうりは己の膝をポンと叩く。阿近は隣へ腰を下ろし、渋々彼女の太股へ頭を置いて寝転ぶ。柔らかい、と素直に感じた。
「懐かしいね。この景色が好きだった。」
「…俺も。」
サラサラな黒髪へ手を乗せ優しく撫でる。寝不足な事もあってかその手つきが眠気を誘う。阿近はゆっくりと瞼を降ろした。
「おやすみなさい。」
「おやすみ。」
どうかこの景色だけは変わりませんように。いつまでも此処が帰る場所として在り続けます様に。ゆうりは腰を折り膝元で寝息を立て始めた阿近の瞼へ口付けた。
それから程なくして、襲ってくる眠気にゆうりまでもが身を委ねる。十番隊へ向かう筈がとっぷりと日が落ちるまで顔を見せなかった彼女が初日から日番谷に怒られるのは数時間後の話。
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