第7章 死神編【後編】
彼が何を言いたいのかは分かった。苦しんでいるのも分かった。
かつて愛した妻を裏切る行為になるのでは、という感情とそれでも目の前にいるゆうりに恋慕を抱いている事に対する己を嫌悪し、ジレンマに眉を寄せた。
「私は、ゆうりに好意を抱いている。だからこそ私以外の男を想い、顔を歪める様は己の中の嫉妬心が煽られ耐え難い感情が渦巻く。」
「…嬉しいよ。白哉が私をそんな風に思ってくれてたのが凄く嬉しい。貴方の事だから緋真さんの事とか、掟の事とか色々考えて言ってくれたんだよね。」
ゆうりは笑って彼の背へ片腕を回し、自分より余程広い背中をポンポンと叩いた。その上で、静かに言葉を続ける。
「私はまだ、海燕さんが亡くなった事に関して気持ちの整理がついてない。それに……まだ、やらないといけない事も沢山有る。白哉のお嫁さんになるのはとても幸福な事だと思うけど、今は安寧に身を寄せることは出来ないの。」
「…お前は一体、何と戦っている。何を隠している?卍解の事といい、私の知らぬ事ばかりだ。」
「私が戦ってるのはいつだって、瀞霊廷の敵とだよ。そんなの虚しか居ないでしょ。卍解の事は…あの日初めて、使える事を私も知ったの。」
「そうか……。」
「兎に角、直ぐに答えは出せない。狡くてごめんね。」
「構わぬ。元よりゆうりが恋人をつくるつもりがない事は再会した時点で聞いている。私が伝えたいと思ったが故に口に出したまでの事。…だが。」
頭に回されていた手の力が弱まる。身体を離し彼の眼を見ると曲げる事を知らない真っ直ぐで純朴な瞳をしていた。
「いつかお前が答えを持って来る日を待っている。それが私にとって望ましいもので無くとも。」
「…必ず、曖昧な言葉以外で返すと約束するよ。」
ゆうりはただ願った。早くこの全ての騒動が終わるように。そして、あわよくばこれ以上誰も犠牲になる事が無いように。何もかも終えた時、己の気持ちと正面から向き合い…仮初の幸せでは無く本物の幸福を掴み取れますように。
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