第7章 死神編【後編】
「そういう余計な一言が無ければ好きになってるかもね。それじゃあまた連絡するよ。」
『え、待っ、ホンマに』
彼の言葉を最後まで聞く前にプツリと通話を落とした。履歴として残る平子の番号も確りと消しておく。両手で伝令神機を持ち、胸元へ添えて瞼を降ろす。
そうだ、私に仲間が1人も居ないわけじゃない。気に掛けてくれる人が居る。独りじゃない、大丈夫。
そう言い聞かせてから伝令神機を懐へ戻し今度こそ六番隊へ踵を返した。
「戻りました。」
「…遅かったな。浮竹とは何の話をして来た?」
執務室へ足を運ぶ。丁度ゆうりと入れ替わりのタイミングで一段落ついたらしい白哉はゆったりと茶を嗜んでいた。ゆうりは自分の執務机に向かい途中になった書類へ筆を走らせながら応える。
「十三番隊の副隊長にならないかって。」
「ほう、よもや私の相談無しに引き抜こうとは。」
「断ったよ。」
「……何故だ。昇進が出来るのは間違い無いが。」
「私はそもそも昇進がいいものとは思ってないもの。もしも上官が引退したのなら喜んで後を継ぐわ。けれど、殉職して空いてしまった穴を埋めるために昇進なんて嬉しくない。」
「甘い事を。私達の仕事は主に虚を倒し尸魂界へ送る事だ。戦いの中で敗者が出るのは当たり前の事であり、こちら側で敗者が生まれれば当然入れ替わりが生じる。それを受け容れられずしてこの仕事は務まらぬ。」
「…随分意地悪な事言うのね。」
「ゆうりが甘過ぎるのだ。」
返す言葉が見付からず口を噤む。白哉の言っていることは分かる。しかし海燕が死んだばかりの今、彼の言葉は深く心を抉った。
白哉は黙りこくった彼女へ一瞥くれて浅く溜息を吐き零す。泣きそうな顔をされるのが嫌だった。ましてやそれが六番隊の誰でもなく、他隊の…しかも男の為の涙になるかと思えば、腹の底から黒く濁った感情が湧き上がるような感覚が有る。
「…なるほど、これが嫉妬というものか。」
「何…?」
「…分からぬか。」
椅子から立ち上がる白哉を視線で追った。執務机の横を通り抜け、真っ白な隊長羽織を翻しゆうりの横へ立った彼は彼女の柔らかそうな白い頬へ手を伸ばす。片頬を白哉の細い指が撫でる中、ゆうりは感情の読めぬ瞳を見詰めた。
「白哉?」
「貴様が、男の為に涙を流すと思うと胸の内を昏い感情が渦巻く。」