第7章 死神編【後編】
「…四番隊に居たのは兄か。」
『そうだよ。目が合ったね、覚えてる。』
「何故ゆうりを追わぬ。」
『追うよ、今から。まぁ、僕が行っても何も出来ないのだけれど…。志波海燕の死を変えることは出来ないし、長い間朽木ルキアの哀しみも癒える事は無い。』
「…何?」
『これから沢山の事件が起こるだろう。それでも…何が起こっても君はゆうりを信じてあげてくれ。それじゃあね。』
花弁となり散った胡蝶蘭の姿は何処か美しく儚く映る。最後に残した言葉の意味が何を指し示すのか、男は一体何を知っているのか。聞く機会はこの後訪れる事など無かった。
ゆうりは十三番隊へ着くと迷わず執務室へ訪れる。ノックも無く、確認もせず扉を開く。中では蹲るルキアと、背を摩る浮竹が居た。
「浮竹隊長!ルキア…!」
「…その顔は、海燕の事を聞いたようだな。」
「………。」
「…何があったのが全部教えて下さい…。」
「私が…私が殺してしまったのだ…。」
震えた唇で、消え入りそうな程か細い声で呟くルキアに浮竹が顔を顰めて彼女の頭を優しく撫でる。とても痛ましい姿にゆうりは眉を下げた。思い詰めてしまうのも当然だと思った。ルキアはこの十三番隊で誰よりも海燕を慕っていたのだから。
「朽木、お前のせいじゃない。だから自分を責めてやるな。海燕も言っていただろう?心は此処に置いていけるって。」
「…海燕さんは、埋めたんですか…?それとも消えたんですか…?」
「朽木が海燕の家まで運んでくれたんだ。けれど…どういう訳か彼の体は光に包まれ、そのまま消えてしまったらしい。だから、埋めることも出来なかった。」
「そうですか…。」
虚は死んだら等しく尸魂界へ送られる。しかしそうはならなかったというならば、胡蝶蘭の言う通り虚圏へと消えた可能性は有るとは思った。持って行かれてしまったのだ、彼の身体を。その後の事は全く分からない。虚の特徴を聞く限り、余りにも死神に対して特化している為藍染の手の内に有る虚だったのは想像出来るが…だからこそ、他にどんな仕組みが施されているのか至って未知なのだ。
「私は最低だ…自分の心を救う為に、海燕殿を殺してしまった…。私など、死神に相応しくもない…!」