第2章 過去編
そう言って彼の頭をぽんぽんと撫でた。部屋の電気を落とし、隊舎に戻る。
「涅さん、何か手伝える事は有りますか?」
「あァ、今日はあのチビが居ないからネ。代わりに私が言う番号の容器を持ってきてくれ給え。迅速に、間違いなくだヨ。」
「任せて下さい!」
ゆうりは涅の言われるがままに手伝った。指定される番号の容器や薬液を探し出し、彼に渡す。時に阿近が作ったばかりの溶液を預かり運ぶ。
「21番の容器と54番の容器。」
「はーい。」
棚を漁り容器を探そうとしたその時、空が光った。それから数秒の間を開けて、雷の落ちるけたたましい轟音が響く。その激しい雷鳴にゆうりの身体が大きく跳ね手に持っていた容器がガシャン、と派手な音を立て全て床へと落ちた。
「…何やってんだ?」
「い…いや…何でもない。」
阿近に声を掛けられ誤魔化す様に首を横に振りいそいそと落とした容器を拾い上げた。すると再び、空はゴロゴロと嘶き始める。彼女の顔は青ざめ背中に嫌な汗が伝う。
「も〜……どうしたんスか大きな音立てて。」
雷の音と容器が落ちる音で目が覚めたのか、目を覚ました浦原が肩に掛けられた毛布を引きずりながら隊首室から顔を出す。
阿近は横目でゆうりをチラリと見やると、彼女を指差し口を開いた。
「ゆうりが雷にビビって容器全部落とした音です。」
「あっ…阿近!別にビビってなんか…」
ピシャンッ、と再び雷が落ちる。するとゆうりは今度は驚きの速さで執務用の机の下へ隠れた。
「…ゆうりサン、雷怖いんですか?」
「こ、怖いなんてそんな…!机の下が好きでたまに潜りたくなるだけです。」
「どんな言い訳だよソレ。」
机の下で蹲る彼女を浦原が覗き込む。そして普段と変わらないヘラリとした笑顔を見せ手を差し出す。ゆうりは伏し目がちにその手へ視線を向けた。
「怖いなら寝てしまうのが1番っス!ボクと一緒に寝ましょ。」
「浦原さんさっきまで寝てましたよね…?」
「寝てましたけど、1時間程度しか寝てないんスよ〜。大丈夫ですよん、ボクは夜になったらまた仕事再開させますから。」
「え…きゃっ!」
彼に強引に手を取られ机の下から引っ張り出される。断る間もなく身体を浮遊感が襲い、気付いた頃には横抱きにされていた。所謂お姫様抱っこの状態だ。