第7章 死神編【後編】
「…これからも藍染隊長を欺く為に息するより簡単に嘘もつくし、拭いても取れん程手は紅く染まる。ボクはそもそも大切なモノ以外興味もない。せやからゆうりみたいに全部守るなんて器用な事出来んし言えん。こういうやり方しか知らんし、浮かばんのや。御免な。」
「…謝る意味が分からないわ。」
それは余りにも不器用で一途過ぎる愛情だった。藍染は膨大な知識に加え表向き人望も厚く、斬魄刀の能力を差し引いても強い。藍染の警戒心を掻い潜り懐まで潜り込むには本当に大切だと思えるもの以外全て何処までも冷酷に切り捨てる位でないと彼からの信頼は得られない。
藍染の性質を理解し始めていたゆうりは何となくそれを察した。
「…ギンがどれだけ手を汚してしまっても必ず私が助けるよ。どれだけの死神が貴方を恨んだとしても私は絶対味方で居るよ。だから……泣かないで。」
「……。」
青空の色をそのまま落とし込んだような瞳から滲む雫がゆうりの死覇装を濡らした。自分が涙を流していた事がまず理解が出来なかった市丸は己の眦へ指先を添える。兎に角優しく彼の背中を摩った。
「…キミの事、今よりもっとぎょうさん泣かすで。それでもゆうりは現世に逃げてくれへんの?」
「私はもう泣かないよ。如何に冷徹な男と対峙してるのか昨日良く思い知らされたから。たとえ誰が殺されても私は泣かないし逃げない。」
「強なったなぁ。」
市丸は瞼を降ろすと身体を少しだけ離し床に着けていた腕でゆうりの後頭部を掌で支え首を傾け唇を重ねる。久々に触れた彼の唇は熱く、少しだけ涙の味がした。
「今日の事は全部秘密やで。」
「当たり前でしょ。むしろギンこそ藍染隊長に私が色々探り入れてる事言わないで。」
「言わへんよ、お互い邪魔立ては無しや。ボクはキミの敵。これから先も、全部終わるまでゆうりはゆうりがしたい事をやり。ボクもそうするわ。」
「分かってる。…大丈夫、きっと全部丸く収まるから。」
「…何する気なん?」
「秘密。」
そう言ってゆうりは笑う。何処か確信めいた表情に市丸は怪訝そうな顔をしたがそれ以上追及する事は辞める。
結局夜もとっぷりと更けてしまい泊まる方が良いと判断した2人は彼の家に泊まり次の日何事も無かったかのように時間をズラしそれぞれ瀞霊廷へ向かうのだった。
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