第7章 死神編【後編】
怪訝そうな顔をするゆうりを見て市丸は笑みを深めて頷く。緊迫した空気が漂う中、あっけからんとした顔で言葉を続けた。
「さっさと現世に逃げや。」
「……へ?」
「藍染隊長はゆうりを殺す気も無い、仲間には…なったらまぁえぇな思うてる程度や。何よりゆうりが傷付いて、泣いて、怒る姿を愉しんではる。これからゆうりがもっと辛くて、もっと苦しい事ぎょーさん起こるで。そんなん嫌やろ。せやから、今の内しっぽ丸めて現世逃げや言うとるんよ。」
「本気で言ってるの、それ…。」
「嘘は言うとらん。これはホントや。」
この言葉が真実ならば、本当に性格が歪んだ人だ。それに、自分が傷付く事など1つしかない。仲間が…死神が殺される。それを聞いて、はい分かりましたなんて言えるわけないし、まして逃げるなど以ての外だ。
「私を苦しめる為に、死神を殺すの…?」
「そういうわけやないよ。実験の為に強化された虚に死神が勝手に殺されとるだけ。」
「酷い言い方。」
「他に言い方があらへん。弱いのが悪い。」
「…それ以上言うならギンでも怒るよ。」
「ひゃあ、怖いなぁ…。これでもゆうりの事心配して言うてるのに。」
「私が生きてたらそれでいい訳?他の死神が死んでもどうでもいいって言うの?」
「その通りや。ゆうりの声も、泣く姿も怒る姿も笑う顔も全部ボクだけが見たい。あの人に弄ばれて泣いてる姿、見た無いわ。」
なんの躊躇いもなく返された言葉に耳を疑い目を丸めると、うっそりとした動作で膝を立てた市丸はゆうりの肩を掴みそのまま床へと押し倒した。突然反転する視界に息をのみ、彼を見詰める。ふと市丸の腕が持ち上げられ、大きな掌がゆうりの視界を塞ぐ。
「ギン…。」
「ボクが大事なものは決まっとる。それ以外は要らんし、欲しない。どうなろうが知らん。」
「ギンの大事なものってなんなの…?」
「言わずもがな、キミや。ゆうりにボクの傍で生きてて欲しい。それともう1つ。幼馴染が奪われたモンを取り返す…それが出来るまでボクは藍染隊長の元を離れる事はせんよ。何人犠牲にしてもええ。どれだけ恨まれてもええ。」
「幼馴染…乱菊さん?」
「せやで。」