第7章 死神編【後編】
僅かに持ち上げられた瞼から空色の瞳が覗く。とても澄んでいるように見える。まるで吸い込まれそうな程綺麗なのに。やる事は酷い事ばかりで複雑な気分になった。
「いいよ、行こう。私もギンと二人きりで話したかったの。誰の邪魔も入らない場所でね。」
「えぇ誘い文句やわ。ほな行こか。」
椅子から立ち上がると、さも当然のように手を取られ指を絡め繋がれる。今まで何も感じなかった事なのに、昨日の事が頭を過ぎり言葉にし難い気持になった。繋いだ手はこんなに暖かいのに、人を殺しても笑顔で居られる程彼の心は冷え切ってしまっているのだろうか。
「流魂街って、何処か行く宛があるの?」
「あるで。ボクが死神になる前、乱菊と住んでた場所や。藍染隊長にも教えとらん。教える必要もあらへんしな。」
「…そっか。それなら何を話しても良さそうね。」
「話したかったやろ、ボクと。」
「あら、それはギンもでしょ?」
「そう思うて無かったらわざわざ外に呼び出したりせぇへんわ。」
横顔を見たけれど、彼の考えは全く読み取る事は出来なかった。それに藍染は知らない場所、という言葉そのものが真実だと思う事すら今はもう出来ない。
まるで夜に人目を盗んで逢引する恋人同士のように2人は他愛ない会話と共に彼と松本の家へと向かった。流魂街という事も有り、邸宅の様に立派なものではなかったが、時折帰って来ているようで比較的綺麗に見える。
「お邪魔します。」
「畏まる事ないやろ。とりあえず、奥行こか。」
草履を脱いで部屋の奥へ進む。魂葬実習の時使った、霊圧感知を遮断する結界を張ろうかとも考えたがそれでは今市丸と密会をしていると告白しているようなものだと思い辞めた。代わりに昨日使った鬼道と同じように霊子の糸を家から外の範囲まで張り巡らせる。もっとも、鏡花水月を使われたらこれも無意味なのかもしれないが無いよりはマシだ。市丸と向かい合う形で座る。彼は普段と変わらぬ様子で胡座をかき、片腕を膝に置いて肘を付き寛いだ。
「さっきも言うたけど、ここは藍染隊長は知らん。何話してもボクが藍染隊長に洩らさん限りバレることは無い。」
「…信じられると思う?」
「ボクなら信じひんなぁ。せやから、先にボクが藍染隊長の前で言えん事言うたるわ。」
「藍染隊長の前で言えない事?」