第7章 死神編【後編】
執務中、筆を書類へ走らせながら昨日の事を思い返す。初めはただの偶然だと思っていた。けれど、母が殺された瞬間あまりにも出来すぎている事に気付く。そもそも尸魂界に虚が出現すること自体類まれなる事だというのに、それがまさか母の住む場所で、己が近くに居る時に出現するとは到底思えないのだ。今までの経験を通し、不自然な虚の出現には必ず藍染が噛んでいる。恐らく今回の件もどこかで見ていた筈。だから、現世で過ごしていた時に編み出した鬼道…糸より細い霊子の網を辺り一帯に張り巡らせた。彼らの姿を確認する事は出来なかったけれど、鬼道の網は一点で揺れた。どんな手を使ったのかは分からないが、居た事に間違いは無いだろう。
「んー…集中出来ないな。」
考えれば考える程、腹の中をモヤモヤとした感情が渦巻く。筆を握っていた手に力が籠る。筆が止まり墨が書面へ滴ると、とても提出出来るものでは無くなってしまうのでまた1から書き直す。そんな事を続けていたせいか今日の仕事は全く捗らない。それ故に今日は1人執務室に残っていた。
「今日は諦めて帰ろう…。」
この調子で進めた所で効率は悪いしなんならミスも出るかもしれない。そう考えたゆうりは筆を置いて両腕をグッと天井へ伸ばした。ずっと机に張り付いていたせいか、やたらと身体が凝り固まった気がする。腕を降ろそうとした刹那、横腹を通り腹へと腕が回され身体が後方へ引き寄せられた。
背中が何かに当たり首を捻って振り返ると、してやったり顔をする市丸が立っている。
「気づかなかった。こんばんは。」
「余程集中してたんやなぁ。誰の事考えてはったん?」
「さぁ…誰だと思う?」
「ボクだったらええなと思うわ。」
ケラケラと笑う市丸の腕を掴みやんわりと手を外させる。彼とこうして顔を突き合わせて会話するのは風邪で倒れた以来だ。しかもあの日は結局特に踏み入った話はしていない。それにしても昨日の今日という事もあり、本当に市丸なのか疑った。
「ねぇ、本当にギン?」
「せやよ。なぁ、これから散歩しに行こ。」
「散歩?」
「瀞霊廷やなくて、流魂街まで出ようや。」
「……今度は何を企んでるの?」
「嫌やなぁ、静かで、絶対誰も居らん場所で話したいだけやて。」