第7章 死神編【後編】
「それが何よ!私の娘なんだから、何しても勝手でしょう!!」
「……娘は所有物でもなんでもねェよ。好き勝手していい訳ねーだろ。」
「うるさい!!まだ話は終わってないわ!返しなさい!」
「悪いけどそれは無理……あぶねェ!!」
ほんの一瞬の出来事だった。ゆうりの母の後ろにまるで陽炎のようにぼんやりとした姿の虚が姿を現す。鋭く太い大きな一本の鍵爪は、彼女の母の腹を貫いた。言葉を発する事も出来ず、爪にはベッタリと鮮血がこびり付く。
海燕は咄嗟にゆうりの腕を引き後ろへ下がったが、目の前で母の死を見た彼女は唇を震わせ瞳に涙を滲ませる。
「いや……!なんで…!?」
「海燕殿!!」
「悪ィ朽木、ゆうりを頼む。」
大きな瞳からぼろぼろと涙を零し蹲るゆうりへルキアが寄り添う。身体はガタガタと震えており、次から次へと襲う現実を受け入れられない様子だった。ここまで取り乱した彼女の姿は初めて見る。ここら一帯で暮らしていた魂魄達は虚の出現に驚き、戸惑い、我先にと逃げ出す。虚は爪に刺さったものを振り落とし、再び蜃気楼のように姿が消えてゆく。無惨に叩き付けられたソレはもう意識は無くピクリとも動かない。
「チッ…姿を消せる虚なのか…!?水天逆巻け、"捩花"!!」
海燕が始解すると斬魄刀は三叉槍へと形を変える。姿の見えぬ虚の霊圧を探った。直ぐ後ろに虚の気配を感じ瞬時に振り返ると同時、槍を突き付ける。…が、そこに居たのはただの陽炎で奮った槍は空を突くだけだ。
「ザンネン、ハズレだ。」
「後ろだと…ッぐ!!」
虚の気配は背後にハッキリと感じていた筈なのに、いつの間に回り込んだのか背後から太い鍵爪が横腹へ引っ掛けられ薙ぐようにして吹き飛ばされた海燕は民家の壁を破壊する程の威力で叩き付けられた。
「オレは霊圧を自分の残像と共に残す事が出来る。複数あるオレの残像から、本体を見つけ出すことは不可能ダ!」
「海燕殿!!」
「大したことねェよ!」
瓦礫を踏みしめ民家から出て来た海燕は口内に溜まる血を地面へ吐き出した。虚は言葉の通り無数の残像を作り増えていた。同じ霊圧の為、本体を探すのは骨がいりそうだとは思う。けれど、先程朽木と戦った時に使った技を使えば容易い。数には数で対抗するのだ。