第7章 死神編【後編】
海燕とルキアは斬魄刀に手を置きながら集落の中を歩いた。その中で、並んで歩いていた筈のゆうりが着いて来ていない事に気付いたルキアが振り返る。彼女は立ち止まり、前を見たまま口元に両手を当てて顔を真っ青にしていた。2人の歩みが止まった所で海燕も足を止める。
「おい、仕事中だぞ。何をボーッとしてやがる!」
海燕が怒鳴り声を上げた途端、視界の端で銀色の長い髪が靡いたのが見えた。そのまま通り過ぎていった、銀色の髪を持つ女の後ろ姿はゆうりによく似ていて、些か目を見開く。ゆうりは震え、迫ってくる女に対して一歩たじろぐ。
死んだ後、大きな罪を犯していない者は等しく流魂街へと辿り着く。家族が死んだとして、この広い尸魂界内で再会出来る可能性は殆どゼロに近しい。だからこそ、会うことは無い。そう思って何処か油断していたのだ。
「お……かあさ…。」
パンッ、と乾いた音が響き渡る。頬を叩かれた、と気付くのに1拍の間が空いた。死神になったゆうりは叩かれた程度で痛みなど感じない。なのにズキズキと痛む気がして、呆気に取られる。
突然彼女によく似た女が現れ、ゆうりの頬を叩くというあまりにも突拍子のない出来事にルキアと海燕はただ固まった。
「アンタのせいで!アンタが死んだせいで私の人生めちゃくちゃになったじゃない!!」
「ごめ…ごめんなさい…!」
「アンタが死んだせいで私が捨てられたのよ!?最悪な人生送って、死んでからもこんなみすぼらしい場所に住まわされて、なんでアンタはいい着物着て幸せそうな顔して歩いてんのよ!!!」
「ごめんなさいごめんなさい!叩かないで下さい…!!」
女は鬼の様な形相でゆうりへ掴みかかり怒鳴った。彼女はただ恐怖から目を背ける様にして両目を固く閉じ、両腕で頭を庇うようにして謝罪の言葉をうわ言の如く何度も上げる。なんとも生々しく、痛々しい光景だった。
あまりの出来事に固まっていた海燕はハッと意識を取り戻すと直ぐにゆうりへ駆け寄り、二人の間に割って入りゆうりを背中に庇う。正面から見た女の顔はゆうりに良く似ている。
「…すみません、ゆうりは死神です。命を掛けてこの尸魂界と現世を守る立場になりました。肉親かもしれませんが彼女は今、瀞霊廷に無くてはならない存在です。手荒な事は辞めて下さい。」