第7章 死神編【後編】
「…いや、やっぱり何でもねェ。忘れてくれ。」
「話振っておいて…!?」
彼は黙ったまま眉間に皺を寄せ膝の間で指を組み思い詰めた顔で地面へ視線を落とした。何かあった事は余りに明白で、ゆうりはかける言葉を失い眉を下げる。
2人の間に沈黙が続いた。吹き抜ける風が木々を揺らす音だけか辺りに響く。
「……何があったのか無理に聞かないけど話して楽になるならいつでも聞くよ。あんまり抱え込み過ぎないようにね。」
「…あぁ。」
返事は返ってきたものの、日番谷の表情は依然暗いままだった。ゆうりは彼の両頬に手を添えると強引に己へ向け、眉間へ指を置き思い切りグリグリと擦る。突飛な行動に日番谷はただ頭に疑問符を浮かべ大きな目で瞬きを繰り返す。
「な……い、いててて!いてェ!」
「まだちっちゃいのにこんなに眉間にしわ寄せて!取れなくなるよ。」
「ちっちゃ…!これでも身長は伸びたんだよ!」
「それでもまだ子供でしょう、難しい顔し過ぎ!」
「ガキじゃねェ!」
「そんな背伸びしなくても……わっ、ちょ、危な……。」
「うおっ…!」
日番谷は眉間を擦る手首を掴み阻止すると隻手で彼女の頬に手を添え軽く摘み外側へ引っ張る。不安定な木の上で揉み合いが始まるとゆうりの身体がふらりと後ろに傾いた。落ちる、と思った頃にはもう遅く一瞬浮遊感が襲いそのまま地面にドサリと背後から落ちた。彼女の手首を掴んでいた日番谷も必然的に巻き込まれ、覆い被さる形で落下する。
「いてて…大丈夫?冬獅郎。」
「え…わ、悪い…!」
意図せず縮まる距離と、胸板に当たる柔らかい感触に日番谷は直ぐに地面に手を着いて身体を起こす。事故とはいえどまさかこの様な形でゆうりを押し倒す事になるとは。バクバクと明瞭に拍動を刻む心臓を抑え彼女の隣に座った。ゆうりは打ち付けた腰を擦りながら上体を起こし袖の埃を払う。
「そんな顔真っ赤にしちゃって、冬獅郎は可愛いね。」
「うるせェ…!」
なんで俺だけコイツにこんな振り回されないとならねぇんだ。ちょっと顔が近かった位でやかましい程心臓が高鳴る。