第7章 死神編【後編】
元妻持ちの白哉に周囲の視線が集まった。ゆうりはニヤニヤと意地の悪い笑みを浮かべ海燕の後ろに隠れ白哉を見る。
「そうよね、白哉だって緋真さんの為に早帰りしてる時期もあったもんねぇ?」
「その期間、ゆうりさんが代わりに残業してたんですよね。」
「な、七緒ちゃん…!!それ秘密…!」
「あ……。」
「…矢張りゆうりであったか。」
ゆうりが慌てて伊勢の口を隠したが時すでに遅し、白哉は俄に目を見開く。確かに己が終えたと思っていた所より職務が進んでいる事があったのは分かっていた。手を付けていたのはおそらく彼女だろうとも思っていたが、本人が何も言わない故に自分から何か言うのは躊躇っていたのだ。
「あれ、気付いてたんだ。」
「己が何処まで仕事を終えているのは把握もせず帰宅する程杜撰な仕事はして居らぬ。……だが、助けられていたのは確かだ。………感謝し」
「おうおう、甲斐甲斐しい部下を持ってて羨ましいじゃねーの!!」
普段、殆ど口にすることの無い言葉を紡ごうとたっぷり間を置いて唇を小さく開いた矢先、傍で聞いていた一心がひょっこり顔を出し口元に手を充て大声で野次を飛ばす。顔は赤く染まっており元々高いテンションが更に昂っているのを見る限りすっかり出来上がっているらしい。
白哉は無表情で一心を見遣りゆうりは彼の言葉を察して微笑んだ。
「…副官が副官ならばその上司もまた同じか。」
「こっちも随分盛り上がってるな。」
「兄の目は節穴か?絡まれているだけだ…浮竹。」
「そうか?楽しそうに見えたけどなぁ。」
「浮竹さん、お疲れさまです。お酒注ぎますよ。」
「あぁ、ありがとう!」
「ゆうりちゃん、ボクもよろしく♡」
「俺も俺も。」
「はーい。あ、白哉もどう?高いお酒もあるよ。」
「あの、これゆうりさんの快気祝い兼ねてるんですよね…?」
「可愛い女の子にお酌して欲しいじゃない!あ、それとも七緒ちゃんがしてくれる?」
「嫌です。」
「痛いっ!」
デレデレとした顔で勢いよく振り返った京楽の顔面を伊勢は厚めの本で叩いた。そんな光景を見てゆうりは酌をしながら海燕、浮竹と共に苦笑する。無言で差し出された白哉の杯にも酒を注ぐと、遠くから己を呼ぶ声が聞こえてきた。