第7章 死神編【後編】
不意に踏み出そうとした足の力が抜けた。1度地に降りた更木はそのまま片膝をつく。ゆうりはホッと息を吐き目の前に降り立った。やっと、散らした花弁の効果が現れたようだ。
「この技は時間掛かるので、使うの嫌だったんですけどこうでもしないと更木隊長は止まりませんからね…。すみません。」
「何しやがった…。」
カラン、と音を立てて彼の手から刀が落ちた。ゆうりが斬魄刀を鞘に収めると共に、散っていた花弁と甘い匂いは消える。更木は手足の感覚を奪われ動けずただ彼女を睨む。
「花の香りには私の霊力が練り込んであり、今回は身体が麻痺するように配合しました。一種の鬼道ですよ。香りの成分は酸素と結合し、肺へ取り込まれた霊力が血液を巡り身体を余すこと無く痺れさせます。取り込む量が多ければ多い程心臓も止めてしまう可能性があるので余り使いたくないんですよ、これ。」
鬼道に精通した、有昭田の助言を借りて創り出した技だった。まさかこんな形で、こんなに早く使う羽目になるとは思っていなかったが。
完全に脱力し、うつ伏せに倒れた彼にゆうりは警戒心を完全に解く。…しかし、甘かった。一瞬、風を切る音がしたかと思えば気付いた頃には死覇装の袴が割かれ太腿が外気へ晒される。次いで暖かい液体が足首まで伝った。
「…甘ェんだよ、簡単に気を緩めるんじゃねェ。」
「ッ……普通、動けないんですよそれだけ吸い込めば…!!」
彼の手には斬魄刀が握られていた。全身麻痺に侵されたと思っていたのに、彼は高い霊圧にものを言わせて強引に腕を動かしゆうりへ一太刀浴びせたのだ。傷口は浅いものの、脈動に合わせてズキズキと痛む太腿に彼女は顔を歪める。
この一撃で本当に更木の身体は麻痺に伏せたらしい。指先ひとつピクリと動かなくなった。
「暫くすれば私の霊力が身体から抜けて動けるようになるのでそのままで居て下さい。」
「……!」
どうやら唇も動かないようで返事は無い。この前風邪で四番隊に世話になったばかりだというのに、また行くのはしのびない。仕方ないが何処かに身を潜め回帰能力で袴の破損ごと治そう。そう思って踵を返した矢先の事だ。
「射殺せ、"神鎗"。」
「縛道の六十一、六杖光牢。」
「わっ…!!」