第7章 死神編【後編】
舌打ちが聞こえてきたと思えば、更木の霊圧が上昇する。そして振り返った刹那彼は笑顔で斬魄刀の切っ先で地を削り下段構えの状態で真後ろまで迫っていた。ゆうりは咄嗟に斬魄刀を抜き両手で柄を握り太刀を受ける。刀同士がぶつかる容赦ない衝撃がビリビリと伝って来た。
「…ハッ、抜いたな!」
「貴方が抜かせたんでしょう…。」
「違いねェ。やちる、降りてろ。」
「はぁーいっ!」
ぴょいっと更木の肩から草鹿が降りた。周りを見てみると突然の隊士同士の衝突に驚く者も居れば高い霊圧に倒れる者まで現れている。ゆうりは以前卯ノ花に叱られた事を思い出し嫌な汗がじっとりと滲む。2回目は流石に御免だ。
「し…失礼します!」
「待ちやがれ!!」
思い切り地を蹴り瞬歩を使い空へ逃げ瀞霊廷を駆け回る。が、依然として更木は追って来る。まるで獲物を見つけた獣のように全く引かない。
ゆうりは深くため息を吐き出した。何処で誰が見ているか分からない以上、この場で技を使うのは気が引けるのだがそうも言っていられない。
何より、周りでパタパタ倒れていく隊士達が居て不味い。これ以上被害者を出したら謹慎処分にされそうだ。斬魄刀のはばきに左手の指先をそっと添える。
「魅染めろ。"胡蝶蘭"。七分咲き。」
花弁となって散った刀身はゆうりの身長より少し短い位の長さで形作られた。残った花弁は更木の周りにヒラヒラと舞い、甘ったるい匂いが鼻腔を擽る。
「あァ…?何だコレ。こんな小細工いらねェだろ!」
「更木隊長、周り見て下さい!!一般隊士まで影響出てます!」
「知るか!」
始解をした所でゆうりは再び背を向け空を駆け逃げた。何故この男が隊長なのだろうか…。否、答えは分かってる。その圧倒的な強さ故であり、これだけ好き勝手に暴れて赦されるのはそれだけの力を持っているからだ。
少しでも油断すればいつの間にか更木は、己の目の前に現れる。大きく振り上げられた刃を斬魄刀で受止めた。飢えた獣の牙のように乱暴な太刀は胡蝶蘭の刃を削ってしまいそうで顔を顰める。
「重ッ……。」
「どうした、こんなもんじゃねェだろ。テメェも仕掛けて来いよ!」
「戦闘の意志は有りませんし、もう仕掛けてます!」
「なんだと……、ッ!」