第2章 過去編
六車の話す内容の半分は理解する事が出来なかった。けれど、2人はこれから戦いに向う、という事と死者が出る程に危険な任務、という事だけは理解ができた。
立ち上がる平子の袖口を反射的に掴む。止められると思っていなかった彼はキョトンとした表情で彼女を見下ろした。
「…あの、気を付けて。六車さんも。」
「そない心配そうな顔せんでも大丈夫や。なァ、拳西。」
「当たりめェだ、ヒュージホロウ如きに負けてたら隊長なんて務まらねェ。」
2人はそう言って笑った。その笑顔に少しだけホッとする。平子はゆうりの脇の下へ手を差し込み立たせると、彼女の前髪を片手の掌で持ち上げる。そしてさらけ出した額へ唇を近付けると、高いリップ音を立てて口付けた。
その姿を見ていた六車は完全に引いた眼差しを彼に向け、ゆうりは口付けられた場所を手で抑える。
「絶対帰って来るって約束の印や。安心して待っとき。」
「お前……流石にそれはどうかと思うぞ…。」
「やかましいわ!コレくらいええやろ。」
「現世だったら犯罪云々で騒がれてるだろ。」
「ここ尸魂界やもん。ほら、ゆうりも行くで。喜助の所戻りや。」
「…あっ、うん。」
しばらく固まっていたゆうりは彼の声に弾かれたかのように顔を上げ駆け寄った。すると六車がそっと耳元に顔を寄せる。
「あんまコイツに近付くと危ねぇから気を付けろよ。」
「そうします。」
「聞こえとるからな!?」
これから討伐に向かうとは思えない緊張感の無さだったがそれがゆうりにとって安心感をもたらせた。2人は地獄蝶の伝令を聞き、現世へ向かう。彼らの背中を見送ったゆうりは十二番隊隊舎へと戻る。
どうか無事で帰ってきますように。そう密かに祈った。
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