第7章 死神編【後編】
「……そんな事、分からないじゃないですか。私は諦めません。全部止めます。誰も死なせません。その為に強くなるって決めて戻って来たんです。貴方も…喜助さんも真子達も、勿論ここに居る人達全て私が護ります。」
「…傲りが過ぎるな。キミにそこまでの力は無い。己は無力だということを教えてあげよう。」
「無力だったのは死神になる前の話です。藍染さん……私貴方がとても苦手でした。何考えてるのか分かりません。今もですが。」
「あぁ、そうだろうね。出会った頃から分かっていたよ。」
ゆうりは彼の瞳を見詰めた。徐に片手を伸ばし藍染の頬へ、そっと触れる。肌は少し冷たいが、人肌をちゃんと感じた。彼女の行動は予想していたものとは違い、彼は止めること無くただ黙ったままゆうりを見下ろす。
「…その口調が、言葉が、藍染さんの素なんですね。少しだけ苦手意識が減った気がします。」
「…変わった事を言うな。」
「ずっと、貴方の言葉を聞きたかったのかも。いつも言葉に感情が無いと思っていたから。……ねえ、藍染さん。」
彼が何をしたいのか、何故死神を裏切る様な道を選んだのかは今もまだ分からない。けれど、彼の…藍染さんの心ごと救えたら良いのに。
彼女の頭を甘い考えが過ぎる。何故か辛そうな顔を浮かべたゆうりに藍染は眉を寄せた。何を考えているのか分からないのは、お互い様だ。彼女の優しさというものは一体何処まで底抜けているのだろうか。大切な物を奪おうとした男に見せる表情では無い。もっと憎しみ、憎悪に満ちた表情を見せていい筈なのに何故目の前の女は憐れんだ瞳をしているのだ。
「…面白いな、キミは。益々私の手元に欲しいものだ。」
「私は駒じゃないわ。誰のものにもならないし誰の意志でも動かない。自分の意志で動くの。」
「見せてみろ、足掻く姿を。そして、何も変わらない事に絶望するが良い。……あぁ、勿論抵抗を辞めて私の手の内に堕ちても構わないよ。」
「え……っ、ん。」
厚みのある熱っぽい唇がゆうりの唇を塞いだ。短い口付けを経て甘いリップ音を響かせた後、離れた彼の顔は耳元へ寄せられる。掠れた低い声が熱い吐息と共に鼓膜を揺らし、思わず身体がピクリと跳ねた。
「その時は芯が溶けるまで可愛がってあげよう。」