第7章 死神編【後編】
お互いに人当たりのいい笑顔で言葉を交わす。本の貸出手続きを終えたゆうりは早々にこの場を立ち去ろうとしたが、藍染とすれ違い間際腕を掴まれた。彼女は俄に目を見開き、頬を嫌な汗が伝う。藍染は涼しい顔のまま彼女を横目に見た。
「…そう急ぐことも無いだろう。少し時間をくれないか?」
「しかし…休養するように言われております。部屋に戻らないと。」
「僅かな時間でいい。部屋まで送ろう。それなら問題無いね?」
暗い瞳と視軸が絡んだ。ゾクリと背筋が粟立つ。
…この男、元々書庫に用など無かったのだろう。ここに来た目的は私だ。
無意識に生唾を飲み込みゆうりはゆっくりと頷いた。そしてあくまでも普段通りを貫こうと笑顔を浮かべる。
「…お心遣いありがとうございます。では、よろしくお願いします。」
「あぁ、それじゃあ行こうか。」
本を片手に、もう片手は彼に捕らわれたまま書庫を出た。久々に見る男はやはり腹の底が見えなくて、苦手だ。これだけは昔から本当に変わらない。優しい笑顔の筈なのに全てが嘘臭く見える。…本性を知ってしまった今は尚更だ。
「随分長い駐在任務だったね。向こうで何か面白いものはあったかい?」
「うーん、そうですね…尸魂界より美味しいものは沢山有りましたよ。洋菓子とか、こちらではあまり食べられる機会がなかったので。」
「キミらしい回答だ。…任務に出る前、僕が君に話した事を覚えているかな。」
「……副隊長の件ですよね。矢張り私には務まるとは思えません。隊長を支えられる程強くないですし、今みたいに体調を崩して迷惑掛けてしまうかもしれませんから。四席辺りが丁度いいんですよ。」
「そうか、それは残念だ。是非染谷くんを、僕の元で育てて見たかったのだが。」
「…私の親は喜助さんだけです。」
「……そう、それが元より1番残念に思うよ。僕がキミを見つけていれば、未来はまた随分と変わっていたかもしれない。」
藍染はピタリと足を止めた。それに合わせゆうりも止まる。書庫からゆうりの部屋がある場所までは、それなりに遠く尚且つ人通りも少ない。そして今は、まさに人の居ない通りだ。隣に立つ彼は瞳を細め彼女を見詰める。
「…藍染隊ちょ……」
「マリーゴールドの花言葉は知っているかい?」
「へ……?」